研究開発プロジェクト紹介
自閉症にやさしい社会:共生と治療の調和の模索
研究代表者:大井学(金沢大学人間社会研究域学校教育系 教授)
プロジェクトについて
研究代表者は、これまで、知的な遅れはないが自閉的特徴を示す子どもたちが、幼稚園・保育所での集団生活になじめず、学校でいじめ・不登校におちいったり、対人関係に悩み、自分を責め、はては児童期うつ病を発症したりする例に少なからず出会ってきました。順調に大学・大学院などを終えて就職した後、職場の人間関係に躓き、退社する優秀な人が自宅に引きこもる例もみてきました。
科学的検証を待たねばならなりませんが、かつて日本社会でめだたなかった自閉症問題が猛烈な勢いで噴出してきているという見解に研究代表者は立っています。
他方で、自閉症はその遺伝要因の寄与の高さから、世界中の遺伝学者・脳科学者の注目を浴び、自閉症の生物マーカー探索競争が始まり、薬物治療の現実性が浮上してきました。当事者や家族は事態の全容を見わたせないまま、不安を抱え、激流に翻弄されています。脳科学の進歩によって自閉症の人を「普通」にするのが賢明な選択なのか、当事者の苦しみをみると迷いは尽きません。早すぎる発見がもたらす親や当事者、関係者への望ましくない影響も懸念されます。
何が妥当な対処なのか、答えは、研究者だけでなく、当事者や家族、幅広い現場の人々、企業や地域の人々の議論を通じた合意の中にしか見いだせないと考えるようになりました。金沢において市民と大学と行政の共同のテーブル「地域自閉症共生・治療共同体」を設置し、市民合意のコホート研究や自閉症に優しい社会づくりの促進を促すシステムを是非根づかせたいと考えています。
プロジェクト関連WEBサイト
- 金沢大学RISTEX科学技術と社会の相互作用「自閉症にやさしい社会:共生と治療の調和の模索」 http://ristex-kanazawa.w3.kanazawa-u.ac.jp/
研究開発実施報告書
平成21年度の研究開発プロジェクト採択以降、毎年度、研究開発実施報告書を掲載しています。
http://www.ristex.jp/examin/science/interaction/index.html#h21
これから開催予定のイベント
自閉症サイエンスカフェ・サロン形式
毎月22日に開催しています。
詳細:
http://ristex-kanazawa.w3.kanazawa-u.ac.jp/
終了したイベント
第6回本屋さんカフェ(最終回)
日時: 2012年4月1日(日)14:00-16:30
場所:金沢ビーンズ/ 明文堂書店3F(石川県金沢市鞍月5-158 )
詳細:
http://ristex-kanazawa.w3.kanazawa-u.ac.jp/pdf/honya0401.pdf
第2回金沢大学子どものこころサミット
※RISTEX研究プロジェクトの主催・共催イベントは3日目です。
日時:2012年3月16日(金)13:00-18:00
3月17日(金) 9:00-18:00
3月18日(金) 9:30-16:45
場所:第1日目・2日目 金沢大学附属病院4F 宝ホール
(石川県金沢市宝町13-1)
第3日目 金沢21世紀美術館B1F シアター21
(石川県金沢市広坂1丁目2-1)
詳細:
http://kokorosummit.w3.kanazawa-u.ac.jp/
第5回本屋さんカフェ
日時: 2012年2月5日(日)14:00-16:30
場所:金沢ビーンズ/ 明文堂書店3F(石川県金沢市鞍月5-158 )
詳細:
こちら
イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#25
第4回本屋さんカフェ
日時: 2011年12月4日(日)14:00-16:30
場所:金沢ビーンズ/ 明文堂書店3F(石川県金沢市鞍月5-158 )
詳細:
こちら
イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#24
第3回本屋さんカフェ
日時: 2011年10月30日(日)14:00-16:00
場所:金沢ビーンズ/ 明文堂書店3F(石川県金沢市鞍月5-158 )
詳細:
こちら
イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#17
「自閉症のための諸科学の協働:脳・こころ・社会」金沢会議2011
日時: 2011年10月 9日(日)13:00-16:30
10日(月祝)9:30-12:35
場所:石川県政記念しいのき迎賓館 セミナールームB
(金沢市広坂2丁目1番1号)
詳細:
http://ristex-kanazawa.w3.kanazawa-u.ac.jp
イベント開催報告: http://www.ristex.jp/science/event/report.html#23
第2回本屋さんカフェ「アスペルガー症候群」って何?
日時:2011年8月7日(日) 14:00-16:00
場所:金沢ビーンズ/明文堂書店 金沢県庁前本店3階(金沢市鞍月5-158)
詳細:
http://www.ristex.jp/pdf/honyasan.pdf
イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#16
第1回本屋さんカフェ「大人の発達障害」を知っていますか?
日時:2011年6月18日(土) 14:00-16:00
場所:金沢ビーンズ/明文堂書店 金沢県庁前本店3階(金沢市鞍月5-158)
詳細:
こちら
イベント開催報告:http://www.ristex.jp/science/event/report.html#14
第一回自閉症共生・治療コンセンサス会議
日時:2010年9月12日 13:00- 17:00
場所:金沢21世紀美術館レクチャールーム(石川県金沢市広坂)
詳細:
http://ristex-kanazawa.w3.kanazawa-u.ac.jp/
プロジェクトの概要
プロジェクトの目標
自閉症スペクトラム障害(ASD、いわゆる自閉症)(*1)は、年齢人口の1%以上に発現し、その約4分の3が平均かそれ以上の知能を持つ高機能の状態(以下HFASD)(*2)にあります。まれにノーベル賞受賞者もいれば異様な事件の犯罪者もいますが、大多数は就学前後から中高年期に至るまでのライフコースのどこかで、周囲とのかかわりやコミュニケーションの失敗を契機に不適応を起こした後に診断される場合が多く見られます。通常の数倍の割合で精神疾患があり、診断が遅いと転帰が不良で、早期発見が不適応や精神疾患の予防に重要です。この早期発見の是非の議論を複雑にしているのが、顕著な不適応がないが基本的な自閉徴候をもつアトリスク(潜在的に危険にさらされている状態)のグループです。彼らは社会との葛藤を抱えながらも、自らの行動を修正して社会に紛れて生きています。中には人並みすぐれた才能に恵まれたギフテッドの人々も含まれ、支援が貴重な社会的財産を生み出すこともありますが、他方では、解決できなかった葛藤が、反社会的な行動として暴発するリスクも抱えています。HFASDやそのアトリスク状態を積極的に早期発見し治療すべきか否かは、議論が分かれる、医療の範囲を超えた社会的な問題です。
このプロジェクトは、脳科学に基づき自閉症を早期発見・治療する方向と、自閉症をあるがまま受け入れ共生する方向の調和のための「地域自閉症共生・治療共同体」(Local Community for Coexistence with and Cure of Autism :LCCCA)構築を追求します。自閉症に直接関係を持たない人も含めた広範な市民と大学の研究者とが対等な議論を重ね、自閉症に優しい地域社会づくり、自閉症にかかる科学技術と社会のかかわりについての合意形成をはかります。その核となるLCCCAは、
1)研究機関など基本的社会基盤が確保可能な中規模都市圏域で、
2)当事者、家族、支援者、関連NPO等市民団体、保健・医療・福祉・教育・労働の現場人、マスメディア、医系から文系までの研究者などの多様な関与者で構成され、
3)自閉症脳科学技術と社会の絶えざる相互作用の場として、
4)自閉症の発現と転帰にかかわる多角的コホート研究を行う市民合意形成を追求します。
自閉症は1940年代に米国の精神科医カナーと、オーストリアの小児科医アスペルガーにより別個に提唱された疾患概念であるが、今日では一つのものと理解されている。親の育て方が原因と考えられた時期もあったが、1960年代以降脳の機能障害とみなされるようになった。また、かつては1万人出生に数人とみなされたが、徐々に報告される出現率が上昇し、最近では100名中1名以上とする報告が相次いでいる。米国精神医学会の診断と統計の手引では、自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害など5つのタイプが区別される。人とのかかわりの困難、言語・コミュニケーションの障害、興味の限定・行動の儀式性・常同性が3大特徴であるが、タイプによりあらわれ方は異なる。知能に遅れがある場合も、知能が平均かそれ以上である場合もある。こうした姿を自閉性の濃淡の「まだら模様」をなす連続で一体的なものととらえる概念が自閉症スペクトラム障害である。
高機能自閉症スペクトラム障害(High-Functioning Autism Spectrum Disorder). 自閉症スペクトラム障害(ASD)のうち、知的な遅れのないケースを指す。幼少期に顕著な言語の遅れがないアスペルガー症候群、幼少期の言語開始が遅れる高機能自閉症、それらのどれにもあてはまらない特定不能の広汎性発達障害(非定形自閉症ともいう)を一括した総称である。
プロジェクトの構想
社会の自閉症へのまなざしの生成過程を構築主義の観点から解明し、「個性を要素とする」幸福対「資質と能力の平準化」という倫理問題を解き、自閉症をめぐる科学的合理性と社会的合理性の軋轢を調停する討議民主主義条件を検討します。そのため
1)MEG(*3)等の脳イメージングによる3歳HFASD発見技術開発(図.1)と社会実装の可否及び妥当性を検討
2)研究者チーム、教職員、保護者の共同による治療・支援共生調和学校社会の模索
3)大学生対象の自閉症スペクトラム指数(AQ)(*4)による自閉症発見・支援システムを社会実装する可否や手法の妥当性、社会性ホルモン・オキシトシン(図.2)(*5)の治療目的の利用の妥当性
の検討を行います。
Magnetic Encephalograph. 脳の磁気活動をとらえ脳磁図を描く。通常の脳波(EEG: Electric Encephalograph)に比べてはるかに高い分解能をもち、実施が容易な非侵襲的脳機能計測手法として期待が集まっている。放射線を用いず、被測定者を狭い空間に閉じ込める必要もないため幼児の脳イメージングに適している。言語課題、顔認知課題、視線の変化課題などで自閉症者や自閉症のきょうだいの乳児で特異な反応が存在することが最近明らかになってきた。幼児期の自閉症の発見の指標としての臨床応用が検討されている。
英国の自閉症研究者Baron-Cohenが開発した、日本版も作成されている、成人向けのHFASDスクリーニング質問紙。「パーティに行くより図書館に行く方が好きか?」「自動車のナンバーなど無意味な数字に興味があるか?」などの50項目の質問に答えることで、自閉症指数が得られる。33をカットオフポイントとしており、それを超えた回答者の約9割が、精神医学的に詳細な手続を経て自閉症と診断される。逆に33以下でも自閉症と診断される場合も若干だが存在する。
ヒト最古のホルモンの一つとされる。分娩時の子宮収縮から、幼少期の母子愛着形成、思春期以降の性愛や生殖、成人期での相互信頼まで、ヒトの生涯を通じて重要な「愛・絆・信頼」の生物学的基盤における重要な役割を果たすとみなされ始めている。欧州と北米では1990年代から自閉症者の症状緩和に有効であることが報告されているが、日本では陣痛促進剤(静脈注射)としての認可のみにとどまり、自閉症の治療薬(点鼻薬)としてはいまだ認可を受けていない。2007年に東田らにより視床下部からのオキシトシン脳内放出に関与する蛋白質CD38をノックアウトしたマウスの社会行動に異常が生じることが発見された。自閉症児者で固有のCD38関連遺伝子多型を持つものがおり、オキシトシンが効果を示す可能性が検討され始めている。なお、遺伝子多型とは、一塩基多型(SNPs: single nucleotide polymorphisms)など、同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること、あるいはその異なる遺伝子配列のことである。種々の疾患との関連が注目されており、自閉症の生物学研究でも取り上げられている。
広汎性発達障害診断システムとMEG-NIRS統合機の開発
以上は、
1)分野別(幼児・学齢・大学生等)および分野横断型の自閉症サイエンスカフェの開催と、
2)多様な関与者へのインタビュー
からスタートします。
自閉症サイエンスカフェの継続開催(写真)と拡大、さらには多様な関与者による熟議への展開をはかり、インタビュー結果に基づく組織的な社会調査を行う。これらの成果に基づく自閉症コンセンサス会議において市民・行政・大学などの連携によるLCCCA確立の課題と条件を明らかにする。
将来的な波及効果
直接的には、
1)将来の自閉症科学技術開発に備えるLCCCAモデル、
2)HFASDアトリスク児への配慮を含む自閉症に優しい学校社会モデルが提案され、
3)3歳児HFASD早期発見支援システム<一字アケ>ならびに
4)大学生HFASD早期発見支援システム社会実装の可否と条件が解明され、
5)自閉症研究者の社会リテラシーと関与者の自閉症科学技術リテラシーが涵養され、
以上の結果として、LCCCAを核とする治療・共生の持続的調和が可能な自閉症に優しい地域社会が構成されることを目指します。これらは、国家レベルでの自閉症に優しい共生・治療調和型社会構築、自閉症の個人が個性的な人材として貢献する社会システム作りに寄与しうると考えます。
間接的には、
1)遺伝子変異(SNPs、図2)による疾患(ex. 心疾患、脳血管障害、癌など)問題の関与者カテゴリ、
2)社会不適合起因型各種精神障害にかかる、市民参加型の科学技術−社会の相互作用、意思決定・対処モデルの提案が可能となります。
報道・プレス発表等
新聞/雑誌等
| ●2010.11.16 | 北陸読売新聞 | 自閉症者の就労支援提言「やさしい社会へ」会議閉幕 |
| ●2010.10.18 | 北國新聞(朝刊) | 自閉症に優しい社会へ意見交換 |
| ●2010.8.23 | 北國新聞 | 自閉症を語り合う |
| ●2010.7.21 | 北陸中日新聞 | 自閉症会議の市民委員募集 |
| ●2010.6.3 | 北國新聞(朝刊) | 「自閉症サイエンスカフェ・サロン形式」開催案内 |
| ●2010.4.7 | 北陸中日新聞(朝刊) | 金沢大学中央図書館ほん和カフェ内での「自閉症サイエンスカフェ」開催実施 |
| ●2010.4.1 | 北陸中日新聞(朝刊) | 金沢大学中央図書館ほん和カフェ内での「自閉症サイエンスカフェ」開催案内 |
テレビ/ラジオ等
| ●2010.5.2 | ラジオ金沢 | 「まるびぃon the radio」 研究代表者 大井学 出演 |
論文発表
| ●2010.11.26 | 山口陽平、長澤達也、立脇信彦、石橋望、三邉義雄 | 金沢大学附属病院神経精神科における摂食障害入院患者についての検討 | 第23回日本総合病院精神医学会総会、 東京 |
| ●2010.11 | Georgiev D, Minabe Y, Lewis DA, Hashimoto T | Molecular mechanisms in schizophrenia and autism: human pathology | 40th Annual Meeting of Society for Neuroscience, San Diego |
| ●2010.10.28 | 三邉義雄 | Bambi Plan: project with NIRS/MEG integrated device for the early detection of autism spectrum disorder in preschool children | Symposium in Chonbuk University (Chonbuk, Korea) |
| ●2010.10.17 | Georgiev D, Minabe Y, Lewis D | Identification of molecular markers for GABA neuron subsets in the human cerebral cortex D | 第37回日本脳科学会、中国・天津 |
| ●2010.9.14 | 柴田正良、S. Nagataki, T. Konno, T. Hashimoto & H. Hattori | Joint Attention Realized in a Robot with Intentional Agency(S. Nagataki, M. Shibata, T. Konno, T. Hashimoto & H. Hattori) | The ECCS’10 European Conference on Complex Systems, Lisbon, Portugal |
| ●2010.8.30 | 鈴木健一 | 共通検討事例発表 | 平成22年度障害学生修学支援事例研究会 |