ホームイベント・報道情報>イベント開催報告

イベント開催報告

「科学技術と人間」研究開発領域、研究開発プロジェクト、また関連団体が開催したイベントについての報告を掲載しています。

「科学技術と人間」研究開発領域主催・共催のイベント

2011年5月29日開催 「科学技術と社会の相互作用」第4回シンポジウム


《城山プロジェクトからの発信》

《講演:村上領域総括》

5月29日、「科学技術と社会の相互作用」第4回シンポジウムを開催しました。台風の接近による雨中、会場には多数の参加者が集まり活発な議論が展開されました。
 まずは村上陽一郎領域総括より「科学・技術と社会の新たな関係」と題し、専門家の役割や社会的意思決定について講演を行いました。その後、第1部として、3年間の研究開発を終了した城山英明氏(東京大学公共政策ビジョン研究センター・センター長)が「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント:TA)手法の開発と社会への定着(TAは日本で可能か?)」、また、那須清吾氏(高知工科大学社会マネジメントシステム研究センター・センター長)が「森林資源のエネルギー化技術による地方の自立・持続可能な地域経営システムの構築(現場と共につくる地方自立のための社会システム−高知県の事例)」というタイトルで、研究開発プロジェクトの成果と今後の展開について、研究に関わったメンバーと共に発信しました。また、第2部では、平成21年度に採択された4つの研究開発プロジェクトから、領域アドバイザーの進行のもと、それぞれ、BSE・自閉症をテーマにしたステークホルダーとの対話の場の構築に焦点をあてたプロジェクトや科学技術の持つ不確実性をどのように法の中で扱うかという問題を探るプロジェクトやジャーナリストと科学者をつなぐための情報発信の仕方を実践するプロジェクトなど、いずれも様々なステークホルダー間の調整を行いながら実施している社会実験についても触れました。限られた時間の中で会場からの質疑も活発に挙げられ、研究に対する期待や関心の声が寄せられました。

当日のプログラム及び配布資料(スライド)(PDF:15.2MB )はこちら

シンポジウム終了後も、こちらから当日の映像を視聴いただけます。画面下の「最近の過去のライブ」からお願いいたします。
http://www.ustream.tv/channel/ristex-sth04

「サイエンスニュース」の特集ページに中村プロジェクトが紹介されました。
http://sc-smn.jst.go.jp/sciencenews/index.html
「科学と裁判:不確実な科学的状況での法的意志決定」(再生時間:6分46秒)

2010年8月24日開催 シンポジウム "Science in Society -a challenge in Japan-"


《会場風景》

《背景・課題説明:村上領域総括》

当日のダイジェスト映像(15分)はこちら


平成19年度から6年間の計画で実施している研究開発プログラム「科学技術と社会の相互作用」は、これまで12件の研究開発プロジェクト(以下プロジェクト)を採択し、研究開発を推進しています。今回、4年目を迎えて"Science in Society -a challenge in Japan-"をテーマに「科学技術と人間」研究開発領域主催の国際シンポジウムを開催しました。
 会場には240名を超える参加者があり、また、第35回国際科学技術社会論会議(4S)の前日開催ということで海外からの参加者も多数ありました。シンポジウムでは村上陽一郎領域総括より「科学技術と社会の相互作用」についての背景や課題について説明を行い、続いて基調講演としてアラン・アーウィン氏(デンマーク・コペンハーゲンビジネススクール研究科長)による「Public Engagement in Science and Technology : what is it for and what does it do?」と題した講演が行われました。
 引き続き平成19年度、平成20年度に採択された8つのプロジェクトから、現時点での成果、研究を進める中で起きたことや「気付き」、今後の見通し、などを報告するとともに、海外から招いた専門家をディスカッサントに、プロジェクトの意義や課題について討議が行われました。また、登壇者による2回のパネルディスカッションが行われ、前半では「市民参加とはなにか」や「科学技術と社会をつなぐ際に研究者はどのような役割を担うか」について議論がなされ、後半には、「研究成果を社会に実装する際のさまざまな不確実性やリスクに対応する際にどのようなネットワークを構築するか」などが議論されました。会場からも活発な意見が得られ盛会の内に幕を閉じました。

当日のプログラム及び予稿集(PDF:1.75MB)配布資料(スライド)(PDF:5MB)はこちら


《基調講演:アラン・アーウィン氏》

《パネルディスカッション》

研究開発プロジェクト関連のイベント

中村プロジェクト 2013年2月2日開催
法と科学の哲学カフェ
「法と医療の不確実性――緊急時の医療コミュニケーションを題材に」




 中村プロジェクトでは、2013年2月2日につくば市の大型商業施設にある喫茶店と園芸ショップの併設店舗「With Garden」におきまして「法と科学の哲学カフェ「法と医療の不確実性――緊急時の医療コミュニケーションを題材に」」を開催いたしました。
 東日本大震災では、災害時の医療のあり方についてさまざまな倫理的・法的・社会的問題が改めて明るみになりました。また、近年の救急車出動の増加による キャパシティの問題など、緊急時の「医療資源の分配」のあり方が問い直されています。「法」整備が必ずしも十分でない状況下では現場の萎縮効果もみられる など、重大な問題が指摘されています。
 今回のカフェでは、医療現場の立場から香川璃奈さん(医師、TRE Forum)、言語学の立場から黒嶋智美さん(明治学院大学、行岡プロジェクト)、社会学の立場から小宮友根さん(日本学術振興会特別研究員)、そして法哲学者の立場から本プロジェクトの吉良貴之さん(常磐大学)および小林史明さん(明治大学)より、(1) 医療現場の声、(2) 言語学・社会学による会話分析、(3) 緊急時医療の法的問題の分析という異なる視点からの話題提供を行った後、カフェに相応しい、参加者を交えた忌憚のない議論を行うことを目指しました。
 話題提供では、現在進行している救急医療の具体的な係争事例が紹介され、その場に居合わせた誰もが食い入るように集中して話に聞き入っていたのが印象に残りました。行岡プロジェクトでこれまでに行われてきた緊急時の医療コミュニケーション(今回は会話分析が中心)に本プロジェクトの強みである法の視点を加味することにより、ポイントをしぼった多角的な議論を行うことができました。参加者にも恵まれ、プロジェクト外の複数の科学者の方々からの第三者的なご意見を提示いただけたのもつくば開催ならではと思っております。プロジェクトの枠を越え、分野を越えた多視点からの社会実装に向けたアイディアの交流は、参加者の方々のみにとどまらず、話題提供者ならびに運営スタッフのいずれにとっても有意義なものであったと言えましょう。カフェ後は、参加者を含む有志で懇親をかねた意見交換の場をもち、さらに議論を深めていただくことができました。法と科学の哲学カフェの実践をかねた協働の場づくりは、間もなく終了を迎える本プロジェクトを締めくくるうえでの今後に向けた播種になったものと考えております。

(執筆:立花浩司)

中村プロジェクト 2012年12月3日開催
法と科学の哲学カフェin仙台「災害・プライバシー・法」



 中村プロジェクトでは、2012年12月3日に仙台市街地にあるカフェ「坐カフェ」におきまして「法と科学の哲学カフェ in 仙台「災害・プライバシー・法」」を開催いたしました。
 プライバシー概念は極めてファジーですが、震災後の状況から明らかなように、プライバシーが守れない生活は健康・財産に損害をもたらす可能性があります。しかし、
(1)概念の曖昧性・文脈依存性
(2)プライバシーが守られていないことが損害の明確な原因となっている(因果関係)の証明が困難
であることから、プライバシー関連の法整備をめぐる議論はなかなか確固たる結論に到達しておりません。
 今回のカフェでは、とくに一次避難と長期避難におけるプライバシー保護対策の相違をケーススタディに、今後の災害発生時に向けた枠組作りに向けたアイディア、さらにこのような場合におけるプライバシー侵害のケースに法的に対応するとすればどのような問題が発生するのかといった論点を、本プロジェクトのメンバーで防災教育関係者の立場から久利美和(東北大学)、法哲学者の立場から吉良貴之(常磐大学)、そして哲学者の立場から村上祐子(東北大学)よりそれぞれ提示し、参加者を交えた議論を行うことを目指しました。
 プライバシーとひと言で言っても、その中には情報プライバシーと健康プライバシーのふたつの側面を含意します。先般の東日本大震災においては、避難所における傾聴ボランティアの存在が注目されましたが、傾聴することによって得られた様々な情報の秘密保持と、外部には容易に口にすることができないことによるボランティア自身のストレス発散をどうやってバランスさせるかという問題が指摘されました。また、震災直後の極限状態ではプライバシーは大きな問題にはならず、時間の経過にしたがってプライバシー概念も変遷していったこと、避難生活が困難な発達障害をもつ方々とどう向き合っていけばよいかといったこと、さらに第三者からは見られたくない、あるいは放ってほしいという個人の権利と集団の見守りとのバランス等も議論の俎上にのぼりました。
 立場や文脈、時間軸によって変化するプライバシー概念は、果たして法によって拘束することが可能なのか、「敢えて法を犯す」(非常時免責)という意思決定も行政には必要ではないか、くわえて根本的には法はそもそも健康や財産を救う存在なのか、それぞれの文脈をまとめていかないと上手くないのではないか、といった様々な論点に議論が展開していきました。
 災害時におけるプライバシーと法の問題を様々な視点から論点整理するには、2時間のカフェで議論を尽くすことは難しいと思われます。しかし、今回のカフェという「場」を通じ、仙台の地で今後の災害発生時に向けた法整備の枠組みづくりを行うための端緒になったとして、有意義なものであったと考えております。

(執筆:立花浩司)

大井プロジェクト 2012年4月1日開催
第6回本屋さんカフェ




 大井プロジェクトでは、2012年4月1日に「第6回本屋さんカフェ」を開催しました。今回とりあげる本は、岡田俊『もしかして、うちの子、発達障害かも!?』(PHP研究所、2009年)です。著者は児童小児科医(京都大学付属病院)で、「自分の子どもが発達障害かもしれない」と悩まれる多くの保護者と接してきた経験から、「子どもの発達について相談できる一冊」として本書を上梓しました。そのため、本書は保護者とのQ&A形式で記述されています。
 今回の話題提供者は、金沢大学准教授で小児精神科医の新井田要氏、金沢市内の幼稚園教員の中林良太氏、そして二児の母の橋爪静氏の3人でした。最初は、中林氏からの話題提供でした。中林氏によりますと、保育の現場では、最初に子どもが発達障害かもしれないと「気付く」のは、何らかの「こだわり」を示したときなどが多いとのことでした。その場合は、同じ状況を再現して、その子どもにいろいろとはたらきかけてみることで、どのような「関わり方」が必要かを探るようにしているとのことでした。もちろん、そのような試みがいつも成功するわけではないけれど、子どもとどのように関われば、本人も家族も周囲の人々もハッピーになるのかを、保護者との間ですり合わせることが重要であると述べました。そのためにも、保護者は1人で悶々とせず、普段から子どもと接している担任などと話をしてみることが大切であるとの考えを示しました。
 次に、新井田氏が話題提供をしました。新井田氏は、本書のタイトルは、出版社がつけそうな明らかに「煽るもの」ではあるが、内容はスタンダードであるとし、著者と同じ医師としての立場から「子どもはそれぞれ違う」という著者の主張の重要性を改めて強調しました。また、世の中には自閉的な傾向のない人は1人もいないにもかかわらず、保護者は「自閉症か否か」の診断を求める傾向にあることなどを挙げ、「本来は助言できる人が学校や社会にもっといなければならない」との持論を述べました。そして、医師として、本書には病院に期待できること、できないことがはっきりと書かれていることを評価するとともに、発達障害に関して、現段階では病院でできることはほとんどないと率直に述べました。発達障害もしくはその傾向のある人たちにとって、就労先や生活の場等の受け皿のない生きにくい時代となっていることに関しては、「そのような受け皿として、伝統的に日本社会に存在した職人文化がなくなってきていることが理由の1つでは」との考えを述べました。
 橋爪氏は、本書を読むことで多くの疑問点が明らかになり大変勉強になったこと、そして母親として多くの人に読んでもらいたいと思うと同時に、タイトルをもう少し工夫したら更に読まれるだろうとの感想を述べました。また、本書の中で、発達障害を説明する際に「その子の特性」という表現が使われていたことが、発達障害を理解する上で役立ち、また印象に残ったとのことでした。橋爪氏自身は、一時期、子供の悪い面ばかりを教師から報告され、落ち込んだこともあったが、教育や子育てに正解はなく、親には忍耐が要求されると考えており、自分にも大きな課題ではあるが「ほめ上手」になることが重要との考えを述べました。
 以上の話題提供を受け、司会の竹内慶至氏(金沢大学特任助教)が、本書の大きなテーマの1つに「発達障害の特徴やその傾向を個性や特性として大切に」とあるが、「個性は社会でもっとも扱いにくいものではないか」との問題提起を行いました。これをきっかけに、議論の内容は、近年の急激な社会の変化や教育問題など広範囲に渡りました。フロアーを交えての意見交換では、「診断を受けることの良い面や悪い面」「診断結果を告知するタイミングの重要性」「多くの不安を抱える保護者には受診の示唆」など診断を巡る議論がなされました。さらに、発達障害の本質であるコミュニケーションの難しさについて、発達障害の当事者を交えての率直なやりとりもなされました。発達障害のある人とのコミュニケーションを行うことは、定型発達者にとってもコミュニケーション・スキルの向上につながるとの意見がでる一方で、アスペルガー症候群の当事者からは「定型発達者がコミュニケーションのあるべき姿を勝手に設定し、それを発達障害の当事者に押し付けること」への苛立ちが吐露されるなど、緊張感を伴いつつも活発な議論が展開されました。
 新井田氏が議論の終盤に、「セラピー」の語源が「同じ道を歩くこと」であることを紹介し、どんなときでも、医者と患者は一緒に歩いていくものだと述べました。最後に司会の竹内氏が、話題提供者と参加者の双方向のやりとりが実現し、フラットな関係が築けたのではとの感想を述べ、議論を終了しました。
 大井プロジェクトにおける本屋さんカフェは今回で最終回となります。本屋さんカフェを企画した動機は、自閉症あるいは発達障害の人・親・教師・研究者など様々な立場の人が関わる際に生じるすれ違いや壁を、本を媒体として議論することで、少しでも取り除くことができないか、というものでした。もちろん、すれ違いや壁を完全に取り除くことはできません。しかし、これまでののべ100人の様々な立場の参加者が、本を媒体にして自閉症・発達障害の知見を深めて議論を重ねたことは、サイエンスカフェの原点である「研究者と市民のフラットな関係」を築くための試みとして、有意義なものであったと考えております。

(執筆:永田伸吾)

大井プロジェクト 2012年2月5日開催
第5回本屋さんカフェ




 第5回「本屋さんカフェ」を、金沢ビーンズ(明文堂書店・金沢県庁前本店)のイベントスペースで開催いたしました。このカフェは、異なるバックグラウンドを持つ書評者たちの対話や書評者とカフェの参加者との対話を通して、自閉症スペクトラム障害や発達障害について考える機会を提供しようという試みです。今回のカフェは、発達障害や自閉症に限らず、若者が置かれている状況やその延長にある社会問題を議論するという趣旨のもとに、中島岳志『秋葉原事件―加藤智大の軌跡』(朝日新聞出版、2011年)を取りあげました。
 
 はじめに、プロジェクトリーダーの大井が、書籍で示されている加藤智大の行動のうち、特に興味深かったことについてコメントしました。ネガティブな経験が積み重なったことの影響から、職場に自分の「つなぎ」が見当たらないことを自分が解雇されたと解釈し、居場所が無くなる、世界が崩壊するような恐怖感に至ったことは、発達障害や自閉症の当事者の行動と似通ったところがあるとしました。また、秋葉原事件が起きた当時、メディアが伝えた加藤智大の言動が、自閉症スペクトラム障害のある人が特定の状況でみせる行動パターンと似ていると感じた当事者や専門家もいた。しかし、加藤智大は発達障害の診断を受けたわけではなく、メディアでも発達障害に関する報道はほとんどなかったため、実際のところはわからないと述べました。通常であれば、殺人のような極端な行動に走ることはありえず、なんらかの社会の矛盾が凝縮して加藤智大に降りかかったのではないかと考えられる。発達障害の当事者であっても、加藤と同じような逆境で懸命に持ちこたえている人たちがほとんどなので、あのような行動を選択した理由を、このカフェで考えてみたいとしました。

 つづいて、金沢大学人間社会研究域の松田洋介氏は、母親のしつけや教育方針、不安定な雇用状況と借金、年収と婚姻、インターネットなど、現代の若者が置かれている状況からも、加藤智大の行動が読み解けるのではないかとしました。まず、かつてよりも「高学歴」と社会での成功の結びつきが弱くなっているにもかかわらず、加藤智大の母親が「学歴」を身につけさせることに非常にこだわっている点を指摘しました。さらに、就労状況が安定していないと、恋愛をしたり安定したアイデンティティを持ったりすることが難しく、恋愛から疎外されていったのではないかとしました。このような点から、本書が記述する加藤智大の人生の遍歴に対する解説がありました。さらに、加藤ほどのコミュニケーション能力がありながら、このような事件を起こしたことが不思議であり、これぐらいのコミュニケーション能力のある人がのびのびと生きられる社会を作ることも考えるべきだとしました。
 
 最後に、アスペルガー症候群の診断を受けている当事者のMさんが、就職難の時代を生きる同じ若者世代として、本書の内容に共感できる部分があるとしました。ネットで知り合った人たちに、時間をかけて会いに行ったようにフットワークが軽く、行動力や企画力もあったのにかかわらず、秋葉原事件を起こしてしまった要因を考えたいと述べました。その要因の1つとして、母親に対して過剰に適応してしまい、他律的に生きざるをえなかったのではないかとしました。自分を「殺して」言われた通りに生きなければならず、さらに自分のしたいことを否定されるという繰り返しのなかで、不満が爆発したのではないかとしました。さらに、「わからなければ人に聞け」と言われても、口頭でのコミュニケーションが苦手なために、うまくいかなかったことが多かったのではないかとコメントしました。
 
 書評者のコメントのあとに休憩をはさんで、まずは3人の間でのディスカッションが行われました。若者たちが気軽に相談できる関係や自分が信頼できる人間関係を得るのに苦労しているのではないか。結婚して家族をつくる以外の生き方が認められにくい社会で、人生の「正規ルート」の入り口となる恋愛に執着しすぎたのではないか。画一化ではなく、多様性を尊重して生きていくようなトレーニングが必要である。このような論点やコメントに対して、フロアでは共感を示す反応が起きました。
 
 フロアとのディスカッションでは、カフェの参加者に女性が多いこともあり、主に母親の子育てに関する議論となりました。子どものいる母親であれば誰もが、子育ての責任が重圧となり、失敗することに過剰な恐れを感じている、加藤智大の母親は様々な価値観に触れる機会が少なく、子育てのなかで孤独感を感じていたと思うなど、さまざまな指摘がありました。
 
 今回の本屋さんカフェでは社会的に注目を集めた事件に関する書籍を扱ったため、書評者のみならず、カフェの参加者も丁寧な発言のもとに、慎重に議論を進めていたように感じられました。そのため、いつもとは少し違った雰囲気でのカフェとなりました。しかし、書評者の間のやりとり、書評者とフロアとのディスカッションでは、いつも以上に活発な意見の交換が行われたように感じております。

(文責 工藤直志)

柳下プロジェクト 2011年12月23日開催
講演会「COP17, そして日本の低炭素社会づくり戦略」


環境省 関谷氏

国家戦略室 清水氏

朝日新聞社 竹内氏

 柳下プロジェクト(「政策形成対話の促進:長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として」…研究代表者:柳下正治)では、2011年12月23日(祝)、上智大学を会場に「COP17(※),そして日本の低炭素社会づくり戦略」と題し、環境省、内閣官房(国家戦略室担当)、朝日新聞社から3名の演者による一般公開のシンポジウムを開催しました。参加者は、研究者、行政担当者、企業、NGO等約120名でした。
 講演では、まず環境省地球環境局国際地球温暖化対策室室長関谷毅史氏よりCOP17の成果と今後の課題について報告があり、続いて、内閣官房内閣審議官清水康弘氏より政府における地球温暖化対策の国内対策の検討状況について報告をいただきました。
 次に、朝日新聞社論説委員竹内敬二氏より「未来世代に対する責任を果たす。エネルギー政策と京都議定書」として新聞メディアとして環境・エネルギー問題について長年取材を重ねてきたジャーナリストの視点でどう読み解くことができるかお話しいただきました。
 講演終了後は、30分ほど会場との質疑応答・意見交換の時間を設け、我が国の中期目標マイナス25%数値と国内措置、京都メカニズム、国際交渉上での2℃上昇の議論、今後のエネルギー政策の方針と国民的議論の方法、未来世代の意思の反映などの論点で活発な議論や問題提起があり、大変な盛況のうちに終了しました。
 現在、政府では、3.11東日本大震災そして今回のCOP17を踏まえた我が国のエネルギー・温暖化対策戦略の検討がヤマ場を迎えており、来春には政府としての国家戦略の選択肢が示され、国民的議論を経て夏には日本国としての政策方針を決定したいという方針のようです。低炭素社会づくり「対話」フォーラムで我が国のエネルギー供給問題についてステークホルダーによる討議を実践してきた当プロジェクトとしても、今後の議論の動向に注目していきたいと考えています。

 なお、当日の演者3名の講演資料は、当プロジェクトのホームページサイトにアップロードしております。どうぞご覧ください。
http://yagi.genv.sophia.ac.jp/shforum/news.html

(※)国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)は、2011年11月28日から12月9日の間、南アフリカ共和国・ダーバンで開催。

(執筆:宮城崇志、柳下正治)

大井プロジェクト 2011年12月4日開催
第4回本屋さんカフェ




 大井プロジェクトでは、2011年12月4日に、金沢ビーンズ(明文堂書店)において「第4回本屋さんカフェ」を開催いたしました。
 今回は、泉流星『僕の妻はエイリアン――「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』(新潮社、2008年)を取り上げました。本書は、アスペルガー症候群の当事者であり、「独特な行動」を見せる「妻」との結婚生活を「夫」の視点から描いたノンフィクションであり、夫婦がお互いの意識のズレを認識し、それを克服していく日常をユーモラスに描いた作品です。これまで「本屋さんカフェ」で取り上げてきた書籍とは少し趣を異にする内容です。
 評者は、金沢大学大学教育開発・支援センター教授で法哲学・倫理学が専門であり、障害者支援教育にも詳しい青野透さん、金沢大学子どものこころ特任准教授で神経精神科学が専門の菊知充さん、これまでの「本屋さんカフェ」で毎回ご協力いただいているアスペルガー症候群の当事者Mさんの3人に担当していただきました。
 まず、青野さんは、本書を「分かりやすく、軽快で、珍しく『?』をつけるところがない一級のもの」と評し、当事者であっても、傍らに理解者がいれば恋愛し家族を持つことも十分可能であることや、発達障害などの当事者でなくとも他人と生活する場合に参考になる内容を含んでいる点に注目しました。また、「エイリアン」という言葉を使うことは、「躊躇や議論はあっただろうが、一番相応しい言葉であったかも知れない」との感想を述べられました。現在、発達障害者支援を行っている大学では、当事者の「居場所の確保」が支援の効果を高めることが認められており、「妻」にとって幸運にも居場所が確保されていたことがよい結果をもたらしたとしました。
 つづいて、菊知さんは、はじめにNatureに掲載された論文「自閉症の力(Laurent Mottron, “Power of Autism,” Nature, Vol. 479, November 2011)」に言及し、自閉症者の持つプラスの側面やそれを引き出すための周囲の助言などが重要であることを説明しました。本書の優れた点として、@自閉症系の方の諦めない気持ちや執着心などのプラスの面が描かれていること、A高機能自閉症の当事者が、支えてくれる人がいることによる成功体験の積み重ねから得た自己肯定感が描かれていることを挙げられました。
 最後に、Mさんは、当事者として「居場所」や「自己肯定感」に注目されました。人と違うことは自己肯定感の源泉であるとして、定型者が「他人の評価に振り回される」という側面を不思議に思うとともに、「アスペ的生き方も楽しい」との当事者ならではの感想を述べられました。
 司会者やフロアとの意見交換のなかで、青野さんは、本書のようなインターネットを上手に活用したコミュニケーションは、これからのコミュニケーションの在り方を示唆するものではないかとの考えを示しました。
 司会者からは、本書に登場する夫婦にとって、アスペルガー症候群の診断を受けたことがお互いの関係を積極的な方向に考え直す重要な契機になったことを受けて、Mさんと菊知さんに対し、診断を受けることの意義についての質問がなされました。Mさんも、「診断を受けることでサポートを受けられるようになる」と、ご自身にとっても診断を受けたことが重要な契機であったという見解を示しました。これを受けて、医師である菊知さんは、診断を受けることが社会保障の利用や適切な治療への道筋となり、社会復帰にもつながってゆく可能性を指摘しました。
 一方で、司会者やフロアからは、対面型コミュニケーションの重要性は普遍的であり、「妻」のパソコンを介在させたコミュニケーションは、対面型コミュニケーションに取って代わるものではないとの指摘や、本書の夫婦の経験を相対化してみることも重要であり、あくまでも事実にのみ注目するべきだとの指摘がなされるなど、過度に本書の内容を称揚することへの戒めと解釈できる意見も出されました。
 ただ、今回の「本屋さんカフェ」の終了後には、本書が発達障害の優れたノンフィクションであるだけでなく、広く人間関係を考察するうえで非常に示唆に富んだ内容であると、参加者の多くの方々が考えていたのではないかという印象を持ちました。

(執筆:永田伸吾、工藤直志)

中村プロジェクト 2011年12月2日開催
第1回若手法哲学漫談「Science at the Bar」


左:吉良貴之(常磐大学)
右:小林史明(明治大学)

参加者同士の議論風景

 1. 概要
 今回の企画はJST-RISTEX「不確実な科学的状況での法的意思決定」プロジェクト(代表:中村多美子)のメンバー有志で、〈法哲学の視点から見た法と科学〉をわかりやすく、そして面白く伝えることを目的として開催したものです。プロジェクトで取り組んでいる様々な問題をスライドで映し出し、それについて話題提供役の2人が法哲学専攻ならではのひねくれ具合でどんどんツッコミを入れていく形で進めました。
 「法哲学」というとなんだか堅苦しくてとっつきにくいイメージを持たれがちですが、本当はどんなことでも話題にし、そして誰にでも参加できる対話第一のエキサイティングな学問です。実際、今回は話題提供が終わる前から参加者のみなさんからどんどんツッコミがなされ、「科学」や「法」の果たすべき役割について、ときには話題提供者そっちのけで参加者同士の議論が盛り上がりました。
 これは震災後の状況の中で、みなさんがそれぞれに「科学」や「法」に強い関心を持っていることの表れといえるでしょう。また、レクチャー形式を避けてバーカウンターのある会場で開催したことから、ゆるやかな「場」の雰囲気も多分に影響していたものと思われます。2時間以上におよぶ十分な議論時間を確保できたこともあり、終了後のアンケートでも、議論に積極的に「参加した」という満足度がとても高かったことがうかがわれました。

 2. なぜ「漫談」なのか
 話題提供役の2人は、学問的にはそれぞれまったく異なった世界観を持っています。それが正面から本気でぶつかり合っている様子は、参加者のみなさまにとってとても新鮮に思われたようです。しかし、そんな2人に共通する基本的なメッセージは、「科学」や「法」にあんまり期待しすぎてもしんどいからもっとゆるく付き合っていこうよ、というものです。刺激的な議論の一方にある、そんな力の抜けたスタンスが漫談としての「笑い」につながったように思われます。
 震災後の現在、科学や法をめぐるコミュニケーションには「怒り」や「悲しみ」があふれています。それはもちろん、今後に向かって必要なプロセスかもしれません。しかし、そればかりでは息が詰まってしまうのも事実です。「笑い」とともになされる柔らかな対話には、凝り固まった問題をときほぐす力がきっとあると私たちは思っています。
 第2回は、2012年中に東京での開催を検討しています。決定次第、告知を致しますので、みなさま気軽にご参加いただければ幸いです。

(執筆:吉良貴之、小林史明、立花浩司)

柳プロジェクト 2011年11月26日開催
第3回里海創生シンポジウム「瀬戸内海の未来を考えるシンポジウム」


柳 哲雄 教授

井戸 敏三 兵庫県知事

 柳プロジェクト(研究代表者:柳 哲雄 九州大学応用力学研究所 教授)では、里海創生に関する3回目のシンポジウムとして「みんなで進める里海づくりとは?」をテーマに行政、研究者、漁業者、住民等が社会実装化に向けた議論を深めました。
 シンポジウムのオープニングでは、柳プロジェクトと協働している「NPO法人メダカのコタロー劇団」から兵庫県の幼稚園、小学校を中心とした里海をテーマとする環境教育活動の報告がアニメ動画を交えて行われました。
 井戸 敏三 兵庫県知事からは、行政の立場から、瀬戸内海の活性化を図るためには政策的な法制度の整備を目指す必要があり、そのバックボーンに里海があることを強調されました。井戸知事は、遅れて参加されたが、パネルディスカッションの最後まで熱心に聴講されました。
 村岡浩爾名誉教授(大阪大学)からは、報告「シンポジウムを通しての里海の議論」と題して、今回で3回目となるシンポジウムの里海に関する議論の経過と参加者アンケート調査結果等を紹介していただき、里海に関する認知度が徐々にあがっている傾向を示された。
 柳 哲雄教授からは、基調講演「里海づくりの展開策」と題して、桑名や日生など各地に展開されている里海づくりの事例を交えて、紹介された。海外ではインドネシアのエビ養殖場で展開されている事例に言及された。里海は、地域特性にあわせて実施内容を考え、持続的なものにするためには経済性を配慮したビジネスとして成立するものでなければならない。その推進のためには、瀬戸内海環境保全特別措置法の改定など法制度を整える必要がある。また、里海をツールとする自然科学と社会科学の一体化した沿岸海域管理を目指し、多様な関係者が参加する協議会を調整役としての展開が考えられた。これらを含めて新しい分野と位置付けた里海創生科学にまで高める必要性を示された。
 日高 健教授(近畿大学産業理工学部)からは、講演「国際的な里海の評価と展望」と題して、海外や社会的に見た場合の里海の評価、問題点について、紹介された。沿岸域管理の問題を解決するアプローチの一つとして、里海の考え方はあるが、具体的な方法は現段階では示されていない。沿岸域といっても扱うスケールによって自然資源を利用する関係者も様々であり、多様になればなるほど調整する組織が必要となり、中立的な立場の専門家を加える必要性を強調された。
 パネルディスカッション「みんなで進める里海づくりとは?」では、まず4題の事例発表が行われた。一見和彦准教授(香川大学瀬戸内圏研究センター)が、「干潟の役割と干潟再生策」について、高松市の新川・春日川干潟の栄養塩の挙動とアサリの資源動向を紹介し、水質の人為的な管理の可能性について言及された。谷本照己グループ長(産業技術総合研究所)は、「藻場の役割と藻場再生策」として、広島県の三津口湾におけるアマモ場に関する実験・調査結果の紹介、及びアマモの有効利用方法について紹介された。橋本俊也准教授(広島大学生物圏科学研究科)は、「干潟・藻場を含む数値生態系モデル」として、広島湾北部をモデルに計算した結果、干潟・藻場の存在が海域の水質に影響を及ぼすことを明らかにされた。中嶋國勝部長(NPO法人環境創生研究フォーラム)は、「里海創生モデルと里海づくり活動」について、里海創生モデルの考え方ととともに、漁村型、鎮守の海型、参加型の活動事例を紹介しつつ、里海づくり活動のあり方に言及された。
 総合討論では、柳教授をコーディネーター、日高教授をコメンテーターとして、事例発表者4名がパネリストとなり、議論を深めました。会場から質問や意見が数多く出され、パネラーとの間で活発な意見交換がありました。意見交換の主たる内容をまとめると次のとおりです。

 @
里海づくりの推進には、漁業者と都市住民とのコミュニケーションの役割が重要であり、受け皿である専門家を加えた協議会の必要性を確認した。
 A
漁業者と都市住民との調整役としては、行政もあるが、NPOが適任かもしれない。現状では、里海実現の成否は中心となる人材がカギとなる。
 B
行政が積極的に関与している例としては、英虞湾の里海づくりで志摩市に里海推進室を設けて運営し、里海条例を作る動きが始まっている。
 C
里海づくりのツールとしては、地域特性を生かしたものとすることが重要で、稚魚稚貝の生育場である干潟、藻場、磯浜の復元、好適な水質、栄養を確保するための下水処理水等の水質管理、塩づくりなど自然科学と社会科学を一体として、組み合わせて適応する必要がある。
 D
里海をどう活用し、瀬戸内海の活用を図るかについては、これらをまとめて提言するとともに、社会への実装化の支援としたい。

なお、このシンポジウムの資料は、近日中にNPO法人環境創生研究フォーラムのホームページで公開予定です。

(執筆:金山勉)


パネルディスカッション

兵庫県漁連組合長の意見

総合討論の風景

平川プロジェクト 2011年11月19日開催
シンポジウム「社会の中に活きる科学技術と大学 -市民と専門家をつなぐ活動の意義と課題-」
〜市民と専門家の熟議と協働のためのネットワーク(DeCoCiS.net)設立に向けて〜

 市民と専門家の熟議と協働のための手法とインタフェイス組織の開発(DeCoCiS)プロジェクトでは11月19日、大阪大学中之島センターにて、シンポジウム「社会の中に活きる科学技術と大学:市民と専門家をつなぐ活動の意義と課題 〜市民と専門家の熟議と協働のためのネットワーク(DeCoCiS.net)設立に向けて〜」を開催いたしました。
 シンポジウムは、中島秀人領域アドバイザーによる開会挨拶、ならびに当プロジェクト研究代表者の平川秀幸による趣旨説明ののち、3部構成で行われました。
 第1部「インタフェイス組織」では、組織が熟議と協働を機能させるための具体的な活動例として、参加型テクノロジーアセスメントとコミュニティベースドリサーチ(CBR)について報告がなされました。初めに、国内の他機関での活動例として、三上直之氏(北海道大学)より「北海道大学における参加型テクノロジーアセスメント活動」と題し、熟議の実践例を、菅波完氏(認定NPO法人高木仁三郎市民科学基金)より「高木基金の取り組み:市民ファンドだからできる『市民科学』の支援」と題し、CBRの実践例をご紹介いただきました。その後、当プロジェクトメンバーの山内保典(大阪大学)・春日匠(大阪大学)・加藤和人(京都大学)より「DeCoCiS活動報告」と題し、当プロジェクトの実践と研究の成果を報告いたしました。
 第2部「DeCoCiSネットワーク」では、平川研究代表より「DeCoCiSネットワーク概要」と題し、持続的な市民と専門家の熟議と協働の実現を目指し、市民と専門家をつなぐ活動を行う数々の組織を連携する「DeCoCiSネットワーク」について、その設立目的と概要について説明が行われました。続いて伊藤真之氏(神戸大学)より、「DeCoCiSネットワーク参加組織の立場から」というタイトルにて、DeCoCiSネットワークへの期待と検討課題が提起されました。
 第3部「パネルディスカッション-社会と科学をつなぐネットワークの強化に向けて-」においては、パネリストの菅波氏、三上氏、伊藤氏、平川研究代表、ならびにコメンテータの城山英明氏(東京大学)を中心に、会場の参加者も交え、このような組織が社会にある意義や期待される役割、またそれぞれの組織の取り組みの特色を組み合わせ「今後、国内外で市民と専門家をつなぐ活動をいかに展開していくのか」という将来ビジョンについて、活発な議論が展開されました。

(執筆:小菅雅行、中川智絵)

大井プロジェクト 2011年10月30日開催
第3回本屋さんカフェ

 第3回「本屋さんカフェ」を、金沢ビーンズ/明文堂書店・金沢県庁前本店3階のイベントスペースで開催いたしました。このカフェは、多様な立場からの書評を通して多様な考え方の存在を知り、また、多様な立場の間で行われる対話を通して、カフェの参加者が自閉症スペクトラムや発達障害についてより深く考える機会を提供しようという試みです。今回は、杉山登志郎『発達障害のいま』(講談社現代新書)を取りあげ、およそ30名の方々にご参加いただきました。
 カフェは、まず、評者の立場や関心から『発達障害のいま』についてのコメントがなされてから、内容に関連する評者の体験やエピソードが紹介されるという順に進みました。
 ひとりめの評者である新井田要氏は、小児科を専門とする立場から、本書を読めば臨床現場のことがよく分かるので、特に若手の医師に読んでもらいたいと述べました。つづいて、本書の章立てに従って、発達障害と遺伝学、トラウマ、精神科疾患における発達障害の位置付け、早期診断などのトピックについて、新井田氏自身の考えを交えながらの解説が行われました。また、『発達障害のいま』の終章で取りあげられている、発達障害の子どもを持つ親へのペアレント・トレーニングと二次障害の防止についても丁寧な紹介がありました。
 もうひとりの評者であるM氏は、身体面で自身の知覚過敏から他の人が何とも思わないようなことでも苦痛を感じてしまい傷つきやすいこと、精神面でも自身にとって理解できない要求や納得いかない指示に従わなくてはならない状況では、命令を押し付けられたと感じ、それがダメージになると述べました。そうしたダメージが蓄積されていくうちに大きなトラウマとなり、自身を取り巻く世界が苦痛ばかりもたらす酷く恐ろしいものとして感じられ、そのトラウマがその後の人生において生きづらさという形で多大な影響を及ぼすことを紹介し、そのうえで、自身の受けたダメージを癒す仕組みづくりが必要なこと、さらにはダメージを残すような「負の体験」をしなくて済むように、ダメージをつくらない「ダメージ・フリー」な環境づくりが必要だと強調しました。
 評者のふたりの発言に続いて、司会者の竹内慶至氏から、発達障害とトラウマ、発達障害と精神障害の関連性などについての質問がありました。質問への返答のなかでは、発達障害がもっぱら精神科の対象として扱われるようになったのがここ10年にすぎないことや遠い過去の体験が突然フラッシュバックしてきて周りの人を困惑させてしまったことなど、参加者にとって興味深い内容が紹介されました。
 その後、休憩時間をはさんで、新井田氏、M氏、参加者との間での白熱した意見のやりとりが行われました。さまざまなトピックが議論されましたが、そのなかでも、特にトラウマに関する話題は参加者の関心を引いたようでした。カフェ終了後に記入していただいたアンケートには、Mさんのトラウマと脱トラウマの話が興味深かった、家族がトラウマの原因になることがあることには驚きだったといった内容の記入がありました。
 「本屋さんカフェ」も今回で3回目の開催となりました。毎回およそ30名弱の一般の市民の方に参加していただいており、このようなカフェも徐々に受け入れられつつあるのではないかと考えております。ですが、1冊の本の内容のすべてを取りあげるのではなく、トピックをしぼった方がよいのではないかという意見もいただいており、現在のような「本屋さんカフェ」という形式も含めて、本プロジェクトにとってどのようなカフェのあり方が望ましいかについて、更なる検討も必要と考えております。

(執筆:工藤直志)

飯澤プロジェクト 2011年10月22日-23日開催
遺伝子組換え作物の栽培について考える「GMどうみん議会」
 (*GM:遺伝子組換え)


全体会場にて

専門家による情報提供

 どのようにすれば関与者同士が納得できる範囲の落とし所が見出されるのか。研究者、有識者とよばれる人々や行政が主導してきた科学技術政策に対して一般の人々の声をどうやって届けるのか。その方法を探る研究の一環として「GMどうみん議会」を開催しました。これは参加型テクノロジーアセスメントの手法のひとつで、「専門家ではない」一般の人々がGM作物に関する課題に対して判断を下すGM市民陪審をもとにしています。
 「GMどうみん議会」では、電子電話帳をもとに全道より16名の討論者を選出し、以下2つの課題に対する回答をまとめてもらいました。

 もしも今後北海道で遺伝子組換え作物が栽培されるようになる場合があるとして
   1. どのような機能をもった作物なら栽培が認められるでしょうか
   2. どんな条件であれば栽培してもよいでしょうか


情報提供と質疑応答
 最初に専門家6名より「科学の側から」と「社会学や現場から」の最近のGM作物に関する情報提供がありました。「科学の側から」は、GM作物の研究開発、環境影響、交雑に関する調査、「社会学や現場から」は、GM作物の報道のされ方、世界各国の栽培状況や規制、北海道とうや湖JAの取組み、が話されました。
 地元の現場に根ざした話題は、討論者に理解されやすく共感を呼んだようです。また、いずれの話題でも活発な質疑応答がなされましたが、報道に関して新しい視点でのデータ分析を示唆するような質問が出たのは印象的でした。

グループ討論
 専門家らの情報提供を受けた後に5、6名ずつ3グループに分かれての討議がおこなわれました。各グループのファシリテーターを務めたのは、これまで本プロジェクトと緩やかに連携してきた札幌消費者協会とコープさっぽろの関係者です。
 あるグループでは、それぞれの生活に根ざした意見や北海道の風土や農業者の就労状況を考慮した思いや意見が述べられ、グループ内で共有されていきました。討論者たちが自らの疑問や意見をうまくことばにできないもどかしさを覚えているように見えることはあったものの、終盤には、ポストイットに書かれたキーワードを構造化し、それにストーリーをもたせてまとめる作業をスムーズにおこなう姿が見られるようになりました。
 科学的な情報を得て、討論者たちのGMに対する考え方に多少の変化があったように感じられましたが、全体的には慎重な意見が多かったようです。

全体討論と回答
 ここでは、各グループ討論でまとめられた意見をもとに原案を作り、それを検討していきました。当初は大きな意見の相違はないまま、不必要な項目や曖昧なことばが削除されたり言い換えられたり、反対・推進が強調されないように表現が訂正されていきました。まとめの段階にさしかかった時、検討課題にある「栽培」の捉え方が討論者間で異なっていることが明らかになり、意見が分かれる場面がありました。最終的に、主として研究開発目的の栽培を想定して議論をおこなったこと、いずれは商業栽培もありうる、という内容の文言を回答に盛り込むことになりました。
 課題1に対する回答では、医療用や不良環境耐性など8つの機能があげられました。中でも放射性物質を吸収・軽減するような環境修復機能をもつ作物については、早急に開発が必要との意見がつけられました。課題2では、情報公開を大前提としたうえで、生産者のコスト削減につながること、特別区域などの設置や住み分け、地域住民の合意の必要性などが条件としてあげられました。  回答文書全文(提出版)
 
プレス発表
 記者会見では、討論者3名が記者との質疑に応じました。リハーサルの時間がなく、ぶっつけ本番での発表となりましたが、初めてとは思えないほど堂々とした応答でした。回答は仮定の下でおこなった議論の結果であり、すぐに栽培につなげるものではないことや実際に栽培する際は、道民の理解や議論が必要であることが強調されました。

 まとめられた回答は、後日、北海道庁農政部に届けられ、そこで関係者と若干の意見交換がおこなわれました。
 北海道では、2006年1月にGM作物に関する条例が施行され、GM作物を開放系で栽培する場合、研究栽培は届け出制、一般栽培は許可制になっています。条例の施行以降、道内では研究、一般にかかわらずGM作物が栽培されたことはありません。
 この条例は3年ごとに見直しをおこない、今年度がその2回目の年です。「GMどうみん議会」は将来のための仮定の議論をおこなったものであり、すぐに条例の見直しに結び付く内容ではありませんが、道民がまとめたひとつの意見として参考にしていただくことを願っています。

(執筆:大原眞紀)


グループ会場にて

記者会見に臨む討論者

※参考
GMどうみん議会ホームページ
情報提供資料・配布資料

佐藤プロジェクト 2011年10月16日開催
公開シンポジウム「里海創生のための地域環境学」


あん・まくどなるど氏

パネルディスカッション

 佐藤プロジェクトと地域環境学ネットワークが主催する4回目の公開シンポジウムでは、「里海創生のための地域環境学」をテーマに、里海づくりに関わる研究と実践に取り組む方々が集まって議論を深めました。
 あん・まくどなるどさん(国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長)の基調講演は、北から南まで日本の海辺を歩き、海で暮らす人々のようすを丹念に記録する旅についてのお話から始まりました。日本の里海の姿がきわめて多様であることが、海辺の人々とのあたたかいエピソードを交えて語られ、里海の多様性を活かした政策の重要性を指摘されました。柳哲雄さん(九州大学応用力学研究所所長)からは、里海の理論にもとづいて様々な実例を実証的に説明され、適切に人手を加えることによって生物の多様性と生産性を高めていくいくつかの方法についても紹介されました。里海づくりはそれぞれの地域での取組みであると同時に、マルチ・ステークホルダーかつ、マルチ・スケールなものであることが、お二人の講演の中ではっきりと示されていました。
 鹿熊信一郎さん(沖縄県水産業改良普及センター主幹)は、様々な海洋保護区の実態を紹介しながら、沖縄の漁業者による自主的な漁業資源管理とサンゴ礁生態系回復の取り組みを高く評価されました。それぞれの地域での「里海」と人々の関わりが、海域利用者(漁業者)による自主的な海洋保護区の設定という取り組みのベースにあることがよく理解できました。山城正己さん(沖縄県恩納村漁業協同組合理事)から紹介いただいた恩納村漁協の様々な事業と活動は、すべてが里海づくりにつながるものでした。特に、沖縄の里海サンゴ礁回復のために、自分たちで創意工夫しながらサンゴ養殖の技術を改善していく様子はどこか楽しげで、活動への誇りを感じさせました。恩納村漁協のもずくを取り扱い、交流事業も行っているパルシステム生協の山本伸司さん(パルシステム生活協同組合連合会理事長)からは、生産者と消費者の交流と学び合いによって、お互いが日々の生業と暮らしの価値観や自然とのかかわり方を変えていく、そのための様々な取り組みについて紹介されました。多様な考えをもった人々が互いに学び合う関係をつくるには、様々な意味での「技術」が必要であるという指摘は、非常に示唆に富んでいました。質のよい商品をつくる技術はもちろん、商品づくりの背景にある"物語"を伝える技術、消費者の求めるものを生産現場に翻訳して伝える技術など、まさに、われわれが「トランスレーター」と呼ぶ存在と大きく重なっています。
 パネルディスカッションでは、家中茂さん(鳥取大学地域学部)がコーディネーターを務めて、恩納村漁協の比嘉義視さん、恩納村漁協のもずくを商品化し里海づくりの活動にも協力するメーカーである井ゲタ竹内常務取締役の竹内周さんが加わり、さらに議論を深めました。柳さんは里海の物質循環の望ましい条件として「太く、長く、滑らか」であることをあげましたが、社会的な価値を持つ商品の流通や人間同士の交流にも当てはまるという佐藤哲さんのコメントは、5名の講演に共通した内容をよく表現していたように思います。海が人々の暮らしから遠ざけられてきた今日において、過去に戻るのではなく、海との関わりを再び紡ぎなおすための技術と科学が、多様な主体の学び合いの中で磨かれていく。議論を聞きながら、そんな里海づくりのイメージが、地域環境学ネットワークそのもののイメージとともに浮かび上がりました。
 また、シンポジウムに合わせて座間味村阿嘉島にて、「地域主導型エコツーリズム」をテーマに、佐藤プロジェクトと地域環境学ネットワークのフィールド研究会を開催しました。阿嘉島を含む慶良間諸島では漁業者とダイビング業者が自主的な海域利用規制を行ったことで有名です。研究会では、垣花武信さん((株)21ザマミ社長、前慶良間自然保全環境会議会長、前座間味村商工会会長)から慶良間諸島での取り組みについて紹介していただいたほか、山川安雄さん(国頭ツーリズム協会代表理事)から国頭村の地域ぐるみでのエコツーリズムについて、穴原奈都さん(三宅島自然ガイド、三宅島海洋教室実行委員会)から三宅島ではじまったばかりの環境教育や地域おこしの取り組みについて紹介しあい、地元座間味の方々とも熱心な議論を交わしました。
 なお、公開シンポジウムの映像と資料は、近日中に地域環境学ネットワークウェブサイトで公開予定です。

(執筆:清水万由子)


鎌田磨人氏(フロアからの質問)

阿嘉島でのフィールド研究会

大井プロジェクト 2011年10月9日-10日開催
「自閉症のための諸科学の協働:脳・こころ・社会」金沢会議2011

 大井プロジェクト(「自閉症にやさしい社会:共生と調和の治療の模索」、研究代表者:大井学)では、石川県政記念しいのき迎賓館を会場に、「自閉症のための諸科学の協働:脳・こころ・社会」金沢会議2011を開催しました。本会議は、自閉症にかかわる異なる領域の研究者が一堂に会し、自閉症をめぐる問題について議論と交流を行うことを目的に企画されました。
 会議の一日目には、自閉症をめぐる諸科学の貢献・連携について、科学者の当事者性の視点を含めた学際的討論を行うための、ラウンドテーブルを開催しました。ここでは、石原孝二氏(東京大学)、西條辰義氏(大阪大学)、竹内慶至氏(金沢大学)、東田陽博氏(金沢大学)、大井学プロジェクト代表らが、それぞれの専門的視点から、学際的な協働の可能性について話題提供を行いました。それを受けて、綾屋紗月氏(東京大学)、熊谷晋一郎氏(東京大学)、M氏(自閉症当事者)が、コメンテーターとして意見を述べ、さらに村上陽一郎氏(「科学技術と人間」研究開発領域総括)が総括を述べました。その後の討論では、「科学者に課された責任とはなにか」、「科学的成果が社会にもたらす影響はどのようなものか」、「自閉症にやさしい社会づくりとは何を目指すのか」といった疑問について、フロアを交えた意見が盛んに交わされました。領域内では議論が為されにくい、根源的な問題が持ち上がり、垣根を越えた対話と協働の重要性が認識される場となりました。
 二日目の企画では、諸科学間の理解を深めることを目的に、自閉症研究の最新の成果や課題について話題提供を行う、分野別シンポジウムを設けました。「脳科学・遺伝学・精神医学」のセッションでは、棟居俊夫氏(金沢大学)、菊知充氏(金沢大学)、堀家慎一氏(金沢大学)が話題提供を行いました。ここでは、最新の基礎研究の動向から、臨床現場にて当事者や家族が抱える問題まで、理系とひと括りにはできない、多岐に渡る報告が為されました。続く「心理学・教育学」のセッションでは、須田治氏(首都大学東京)、川田学氏(北海道大学)、藤野博氏(東京学芸大学)が話題提供を行いました。自閉症研究としては比較的長い歴史を持つこれらの分野で、現在までの、自閉症に対する理論仮説や、評価と支援に関わるアプローチなどが紹介され、自閉症のこころに迫る様々な試みが明らかになりました。最後の「哲学・社会学」のセッションでは、田邊浩氏(金沢大学)、竹中均氏(早稲田大学)、柴田正良氏(金沢大学)が話題提供を行いました。これらの領域は自閉症を扱う研究がまだ数少ないという現状がありつつも、自閉症と科学そして社会の議論に鋭く切り込む重要な問題提起が為され、今後の諸科学の協働に向けて鍵となる役割を果たすことが期待されました。
 会議は二日間にわたり行われましたが、科学者だけでなく、医療や教育、行政の現場で働く方や、自閉症当事者またそのご家族など、自閉症にさまざまな形でかかわりのある方々にもご参加いただき、のべ73名の方にお集まりいただきました。終了後に得られたアンケートからは、諸分野の研究動向について知識が得られた事への感想だけでなく、同じ対象を扱う研究者の間でも、考えの前提や立場の違いが大きいことへの驚きを綴るコメントが、数多く見受けられました。最も多く目にしたのは、本会議のような諸科学間の対話が、今後の自閉症の問題への取り組みに不可欠であるといった意見でした。このように、広範にわたる領域の自閉症研究者が集い議論する場は非常に新しい試みであり、運営側にとっても探索的な取り組みではありましたが、本会議の経験を通して、諸科学の対話のための場を継続的に設けることの重要性があらためて確認されました。

(執筆:三浦優生)

大井プロジェクト 2011年8月7日開催
第2回本屋さんカフェ「アスペルガー症候群」って何?

 大井プロジェクトでは、金沢ビーンズ/明文堂書店・金沢県庁前本店のイベントスペースをお借りして、第2回「本屋さんカフェ」を開催いたしました。
 本カフェは、研究者や当事者などが書評を通して、自閉症や発達障害に対する多様な考えを提示し、書評者だけでなく参加者すべてによる対話を通して、自閉症や発達障害についてより深く考える機会を提供しようという試みです。また、このようなカフェを一般の書店で開催することが、さまざまな方々をつなぐ架け橋になるとも考えています。
 今回は、岡田尊司著『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)を取りあげました。書評の担当者は、精神医学が専門の棟居俊夫氏(金沢大学・子どものこころの発達研究センター)、社会学・現代社会論が専門の田邊浩氏(金沢大学・人間社会研究域)、自身がアスペルガー症候群の診断を受けているM氏の3者にお願いしました。
 まず、棟居氏は、岡田氏の新書について、アスペルガー症候群を全般的に扱った内容になっており、取りあげるべき誤りはないと指摘しました。さらに、アスペルガー症候群や発達障害の特徴を、一般的な病気や慢性疾患と比較することから説明し、さらに「指さし」などの行為を例示しながら発達障害の人たちに見られる「社会性の不具合」にも話が及びました。
 つづいて、田邊氏は、新書などで扱われる現象は社会が作り上げている側面があり、アスペルガー症候群の人々が生きている現代の社会にも目を向けるべきとし、たとえば、就職活動や就労の現場では、コミュニケーション能力が過度に重視されており、そういった状況はアスペルガー症候群の人々、さらには一般の人々も生きづらいものになっているのではないかと指摘しました。
 最後に、アスペルガー症候群の当事者であるM氏は、アスペルガー症候群の診断後に、この新書を手にした時のことを回顧し、特に、第六章「アスペルガー症候群と七つのパーソナリティ・タイプ」を取りあげ、この章で列挙されている7つのタイプのどれにも自分が当てはまると思ってしまって、自分は問題児だと感じたとお話されました。その後、同書の再読時には、時代の寵児やずば抜けた才能を持った人物ばかりが取りあげられており、普通の人のことがあまり触れられていないことに気付いたと述べ、さらに、自身の経験談などを織り交ぜながら、アスペルガー症候群の人々の置かれている現状などにも言及しました。
 休憩時間をはさみ、まず、三者のあいだで、アスペルガー症候群でも有名人や成功者ではない人たちの生きづらさ、周りからのサポートの重要性、診断を受ける意味、診断後の生活の変化などについて意見の交換が行われ、続いてアスペルガー症候群や発達障害は先天的なものなのか、後天的なものなのかと言った質問や、アスペルガー症候群や発達障害の人たちとのコミュニケーションはどのようなものが望ましいのかといった質問が会場の参加者から出され、棟居氏、田邊氏、M氏、さらに参加者も交えたディスカッションとなりました。
 前回につづいて、一般の方々が日常的に利用する書店という場所での開催でしたが、およそ25名の方に参加していただくことができました。
 カフェ終了後に参加者に記入していただいたアンケートによれば、「当事者のM氏の話題提供が興味深かった」、「現代社会はアスペルガー症候群の人でなくても生きづらい」、「効果的な治療がないから多くの本が出ており、そのなかで何が正しいのかを自分で考えることの重要さを感じた」などの記入があり、「本屋さんカフェ」という試みの意図が少しは伝わっているのではないかと感じています(アンケートの記述内容は、意味が変わらないように表現を一部変更しています)。しかし、「フロアの参加者とのやりとりの時間を増やして欲しい」という意見もあり、時間配分の再考などを行うことで、このカフェをより活発な対話の場にしていきたいと考えています。

(執筆:田中早苗、工藤直志)

佐藤プロジェクト 2011年7月3日開催
公開シンポジウム「地域が国際的な制度を活かすために」


松田裕之氏

赤嶺淳氏

 佐藤プロジェクトと地域環境学ネットワークが主催する3回目の公開シンポジウムを、熊本大学にて開催しました。今回は、世界遺産をはじめとする様々な国際的な制度や枠組みを、地域の持続可能な発展のために活用する可能性と課題について、各地の経験に学び議論しました。
 基調講演では、横浜国立大学の松田裕之さんから、ユネスコによる「ユネスコ・エコパーク(Man and Biospere; MAB)」計画と世界遺産への登録事例として、宮崎県綾町と屋久島の取り組みが紹介されました。人間による持続的な利用を重視するMABの方が日本の実情に合っており、これまで自然を活かすまちづくりを進めてきた綾町では、MAB登録により独自の自然と文化を地元の「誇り」として明確に意識できると述べられました。
 阿蘇たにびと博物館の梶原宏之さんからは、人々の生業(牧畜)や命がけの野焼き作業など、地域の人々が暮らしを通して維持してきた阿蘇独自の草原生態系が危機に瀕していることが指摘されました。観光客や野焼きボランティアなどの外部者と、地域の自然や生業とをつなぐ存在を目指したエコミュージアム活動のユニークな実践は、非常に興味深いものでした。
 2005年に世界自然遺産登録された知床で、地元自治体の担当者として登録とその後の動きを経験された知床財団の増田泰さんは、登録によって様々な主体が遺産の保護・管理に関心を寄せて協働できるようになった一方で、地域の人々の関心が薄れ始めていることへの懸念にも言及されました。登録をつうじて築いてきた保護・管理体制を活用して、次のステップへ進むために、現状を見つめなおす時に来ていると指摘がありました。
 名古屋市立大学の赤嶺淳さんによる話題提供は、中華料理の高級食材であり乱獲が問題になっている「ナマコ」の、ワシントン条約による取引規制(現在は輸出許可制)の話から始まりました。しかし、改めて地域の歴史的な沿岸漁業・資源管理のあり方を見直してみると、現場では自然の恵みへの感謝と持続的な利用への関心が脈々と存在しています。今日ではまちおこしとしての「ナマコ供養」など、新たな取組みが生まれていることが紹介されました。
 鹿児島大学の岡野隆宏さんからのコメントでは、世界遺産などの国際的な制度は、様々な関心を持つ人々の共通の目標、キーワードとして活用できると提案されました。世界文化遺産登録をめざす阿蘇については、阿蘇草原再生協議会と、協議会や牧野組合を支えて世界遺産登録をめざす千年委員会などの活動をより発展させ、草原の多様な価値を可視化するしくみづくりによって幅広い協働関係を形成していく必要があると述べられました。
 大分大学の永野昌博さんからは、前職である十日町市立里山科学館「キョロロ」主任学芸員の経験をもとに、地域活性化と研究をつなぐためのポイントをコメントとして提示されました。よそ者の視点や経済的な誘因などを活用し、地域の暮らしの中で培われた知恵・技術を収集・共有・研究・発信していくことで、地域資源をより豊かにするキョロロの豊富な取組みが報告されました。
 続いてパネルディスカッションでは、多様な主体が集まるための共通の旗じるし(目標、キーワード)として国際的な制度を活用すること、経済的な価値を創出して持続的な保全・活用の動力とすることの2つの論点をめぐって議論がスタートしました。いずれの事例においても保全し活用したい地域資産の内容や、その担い手は単一で固定的なものではなく、登録過程からその後に至るまでつねに変化し創られていくものであることが確認されました。また、地元阿蘇の会場参加者から、ボトムアップ型で地域資産を保全・活用するには、レジデント型研究者や協働をコーディネートする人が様々なスタイルで活躍できることが重要ではないかという問題提起がなされました。
 今回のテーマには、地域社会と外部との関係や、国際的に認められる普遍的価値と地域の人々が培ってきた固有の価値との関係など、様々な問いが含まれていました。しかしそれらは二者択一ではなく、互いに入り混じりながら地域が動いていくという実態が浮かび上がりました。その過程で地域の内部と外部をつなぐレジデント型研究者が果たす役割は小さくないように思います。
 また、同日に第2回地域環境学ネットワーク会員総会を開催し、参加型研究評価システム等についてじっくり議論しました。前日からの参加者は阿蘇の世界文化遺産登録申請の構成要素となる場所を巡り、阿蘇の生態的、文化的価値を実感しました。

(執筆:清水万由子)


パネルディスカッション

阿蘇長陽大橋付近にて

柳下プロジェクト 2011年6月22日開催 シンポジウム「対話で拓く低炭素社会―日本のエネルギーを考える―低炭素社会づくり「対話」フォーラムから見えてきたもの」

柳下プロジェクト(研究代表者:柳下正治 上智大学 環境政策対話研究センター長 大学院地球環境学研究科 教授)「政策形成対話の促進:長期的な温室効果ガス(GHG)大幅削減を事例として」では、国内の各界各層のステークホルダー29名と研究者、科学者による低炭素社会づくり「対話」フォーラムを設置し、長期的なGHG大幅削減に向けてステークホルダー間で今から議論すべき課題として「エネルギー供給のあり方:2050年に再生可能エネルギーをどこまで増やすべきか」、「低炭素社会に向けたライフスタイルのあるべき姿」の2つのテーマを選び、徹底討議を行ってきました。その討議の終了に伴い研究PJの社会発信を目的に2011年6月22日(水)、上智大学にて政策対話シンポジウムを開催しました。プログラムは、「対話で拓く低炭素社会 ―日本のエネルギーを考える―低炭素社会づくり「対話」フォーラムから見えてきたもの」をテーマに、エネルギーに関する専門家による講演、研究開発プロジェクトの報告とプロジェクトに参加したステークホルダーによるパネル討議の二部構成となりました。
 第一部の講演では、「GHG長期大幅削減に向けた我が国のとるべき政策アプローチとは − 東日本大震災、原発事故問題を受けて −」として、槌屋治紀氏((株)システム技術研究所)より「再生可能エネルギーによる電力供給」、山地憲治氏((財)地球環境産業技術研究機構)より「エネルギー供給の低炭素化の選択」、飯田哲也氏((特)環境エネルギー政策研究所)より「3.11後のエネルギー戦略 戦略的エネルギーシフト」と題して講演が行われ、その後石川雅紀教授(神戸大学)をモデレーターに3氏と来場者を含め会場全体で簡単なディスカッションを行いました。
 第二部の報告とパネル討議 では、冒頭、研究代表者柳下正治教授より「対話」フォーラムの討議経緯について報告が行われ、後半のパネル討議では、研究プロジェクトに参加したステークホルダーから山口善久氏(東京ガス(株))、根岸哲氏(川崎市地球温暖化対策推進協議会)、平田仁子氏(気候ネットワーク)、科学者として参加した西岡秀三氏((独)国立環境研究所)、秋元圭吾氏((財)地球環境産業技術研究機構)、第三者委員から桝本晃章氏((社)日本動力協会)、明珍美紀氏((株)毎日新聞社)をパネリストに迎え、柳下正治教授を進行役に「対話」フォーラムへの参加や観察から見えてきた成果や課題について討議を行いました。討議では、ステークホルダーによる議論の場が我が国で1日も早く実現することを望む声が挙がり、会場の参加者からも多くの質問や意見が寄せられるなど盛会のうちに終了しました。
 今年度は、プロジェクトの最終年度となりますが、引き続きフォーラムの評価活動、並びに社会実装に向けての対話の場・機能(ツール)の開発・提案に向けた活動が続きます。シンポジウムの来場者数は平日にもかかわらず延べ140名を超え、アンケートからも多くの関心と期待を頂いたことが実感できた1日となりました。当日の講演者の講演資料は、柳下プロジェクトのホームページに掲載しておりますのでご関心のある方はぜひご覧ください。

(執筆:宮城 崇志)

※低炭素社会づくり「対話」フォーラム ホームページ
http://yagi.genv.sophia.ac.jp/shforum/news.html

大井プロジェクト 2011年6月18日開催
第1回本屋さんカフェ「大人の発達障害」を知っていますか?

 このたび、大井プロジェクトでは、金沢ビーンズ/明文堂書店・金沢県庁前本店のイベントスペースをお借りして、「本屋さんカフェ」を開催いたしました。
 現在、自閉症や発達障害を扱った書籍が数多く出版されており、これらの情報を手に入れることが容易になっています。しかし、情報量が増えるにつれて、かえって自閉症や発達障害の全容がわかりにくい状況も生じています。
 このような状況では、自閉症や発達障害の当事者やその家族、自閉症や発達障害を専門的に扱う研究者、人文社会科学系の研究者など、さまざまな立場の人たちが参加して、何がどう正しく何がどう誤っているのかを、対話のなかで考えていく必要があると考えます。本カフェは、書籍の内容を紹介し批評し、参加者すべてが議論に参加できるような対話の場を提供しようという試みです。
 さらに、書評が自閉症や発達障害に関して、一般の方々、研究者、当事者の方々をつなぐ架け橋やメディアとなりうるとも考えています。
 今回は、星野仁彦著『発達障害に気づかない大人たち』(祥伝社新書)を題材に、アスペルガー症候群と診断されたお子さんをお持ちの前田氏(当事者家族)、ご自身がアスペルガー症候群の診断を受けているM氏(当事者)、研究代表者の大井学の三者が、発達障害の原因やメカニズム、治療などを議論しました。
 まず、プロジェクト代表の大井は、同書の記述に過度の一般化が見られること、挙げられている数値の出典が示されていないこと、歴史上の有名人で発達障害と憶測できる人物はいるが、現行の診断法では断定できないことなどを指摘しました。とりわけ、症例や病状を限定せずに、発達障害は「治る」、「治療」できるとしている点が問題であるとも言及しました。
 つづいて、前田氏も、同書で「発達障害は治る」と断定しているが、当事者の親の立場から「治る」とするのは無理であると述べました。たとえば、会社や家族の配慮があれば治るとされているが、同書に書かれているような配慮をしてくれる企業はほとんどない。また、家族が配慮するとしても、続けていくと家族がへとへとになってしまうと、ご自身の子育ての経験をまじえながら、同書の内容の問題点を時にユーモラスに指摘しました。
 最後に、アスペルガー症候群の当事者であるM氏は、この書籍によって発達障害のことが広く知られることは良いことかもしれないが、同書で指摘されている発達障害は当事者のごく一部にしか当てはまらず、同書の内容のみで発達障害の全体像を語るのは難しいかもしれないと指摘しました。
 3人のコメントのあとは、書評を担当した3人の間での意見のやりとり、カフェの参加者からの質問に3人が答えるという順で進みました。書評者と参加者との間でも活発な意見のやりとりがあり、自閉症や発達障害への関心の高さを感じ取ることができました。
 一般の方々が日常生活において利用する本屋さんという場所でカフェを開催するという初めての試みでしたが、およそ15名の方に参加していただくことができました。
 後に、カフェ終了後に記入をお願いしたアンケートから、参加していただいた方々のご意見を挙げておきます。複数の参加者からは、「読む人によって、出てくる書評がこんなに異なるのか」、「3者の視点からの話が聞けて良かった」といった回答がありました。特定の対象でも立場によって異なる考え方が存在しており、そのことを知っていただく機会を提供することができたのではないかと考えています(なお、アンケートの記述内容は、意味が変わらないように表現を一部変更しています)。しかし、「あまり得るものがなかった」という感想もあり、そのような感想を持った方にも興味を持っていただけるようにすることが、次回以降の「本屋さんカフェ」の改善点であると考えています。

(執筆:工藤 直志)

城山プロジェクト 2011年3月11日開催 日蘭共催シンポジウム
「根拠に基づく科学技術イノベーション政策のための実践とコミュニティの発展に向けて」

このシンポジウムは、I2TAプロジェクトとオランダ・ラテナウ研究所との共催でなされた。
 はじめに、ラテナウ研究所の2名のゲストから科学システムアセスメント(SSA)とテクノロジーアセスメント(TA)について講演いただいた。Barend van der Meulen氏(オランダ・ラテナウ研究所SSA部局長)からは、設立から25周年を迎えたオランダ・ラテナウ研究所の経験を語っていただいた。続いてFrans Brom氏(オランダ・ラテナウ研究所TA部局長)からは、ライフサイエンスが科学技術政策に与える影響について、オランダ国内・欧州における議論および取り組みが紹介された。
 その後、パネリストとして登壇予定であった有本建男氏より、日本においてはできるところからTAを普及すべきであり、TA機関が設立されたとしても既存の政策評価に終始しないよう留意しなければならないとのコメントがあった。また、同じくパネリストとして登壇予定であった角南篤氏は、社会科学者が政策を評価するときには、目標を明らかにし、定性的で幅広い根拠に基づく政策(EBP)が重要であると指摘された。
 これに対し、講演者のFrans Brom氏からはTA機関の設置場所や運営の透明性の確保が大事であること、Barend van der Meulen氏からは大学と比べたラテナウ研究所のあり方の違いについて意見を頂いた。
 I2TAプロジェクトの城山英明リーダーは、科学技術政策の多様性や、TA機関におけるチェックアンドバランスの意義について触れ、結びの言葉とした。
 大地震の当日であったにも関わらず、参加者の熱意に励まされ、困難な状況の中シンポジウムを終了することができた。非常事態の中、参加者およびシンポジウムの運営に尽力いただいた皆様に深く御礼申し上げる。

(執筆:I2TAプロジェクト)

城山プロジェクト 2011年3月7日開催 I2TA公開シンポジウム
「テクノロジーアセスメント(TA)はどのように政策や社会に貢献できるか?」

このシンポジウムでは、3名の演者からの講演と6名のパネリストによるパネルディスカッションにより、TAの意義から制度化までの議論がなされた。
 最初の演者であるマイケル・ロジャース氏(元欧州委員会委員長科学技術政策顧問)からは、政策過程における専門家によるアドバイスをテーマ講演いただいた。TAで示される科学技術の専門家が真摯に検討した結果は、政策決定過程において尊重されてしかるべき重要な情報であるし、場合によっては専門家が自ら積極的にアドバイスを与える場合もあってよい。ただし、この専門家による検討は透明性が高い状況で行われることが重要であり、政策に貢献できるだけの実効性の高いものであることが必要となるだろう。さらに、TAは政策決定に重要な示唆を与えるものであるが、それだけでは十分ではなく、倫理的検討や社会の関心に関する検討もあわせて必要となることが具体的な例とともに示された。例えば人体に情報通信技術であるチップを埋め込むことも技術的には可能となるが、これが人のプライバシーや人権にどのような影響を与えるのか、倫理的検討及び社会の受け止め方について検討されるべき重要な項目を含むことが紹介された。
 二人目の演者であるフランス・ブロム氏(オランダ・ラテナウ研究所TA部局長)からは、「TAが信頼に値するものであるか」という刺激的な観点から、設立から25周年を迎えたオランダ・ラテナウ研究所の経験を語っていただいた。TA機関として重要なことは、@政策決定者だけではなく国民のためにTAを行っているということ、A社会にとって信頼されるべく事実を幅広く認識し、様々な観点をとりいれるべきこと、B社会との関連性をつねに意識し、対話や社会の動きに応じた対応を行うことがあることが示された。特に社会の複雑化にともなう多元的構造のなかで、政策決定をすべきことに注意を払わねばならず、技術によって生活のスタイルが変わっていくことなども検討することがTAの意義であるとした。さらに、TAにおける市民の役割としては、有権者であるとともに、市民自体が知識の源であるとの役割が示された。
 もう一つの大きな問題提起として、TAが社会との関連性をもつために、議論を喚起すべくあえて異論をはなつという姿勢もありうるのではないだろうか、との点があった。TAが議論を喚起し、社会全体が問題意識をもつようになる、ここにTAの貢献があるのではないかと指摘した。そして、議論喚起としてのTAの役割を果たすためには、メディアとの関係や政策への理解が不可欠な要素となることが示された。
 最後の演者は、I2TAリーダーである城山英明(東京大学公共政策大学院教授)より、現在の日本におけるTAの意義について、歴史的教訓を踏まえた講演があった。TAが政治や行政、社会に貢献できる6つの機能が示され、さらに、これらの機能に関連するI2TAプロジェクトでの実践と成果に関して報告された。また、TAの歴史的試みとその教訓としては、従来の実践は、アドホックな実践かつ限定的な関心にとどまっていたことや、手法においても社会における価値の多元性を十分扱いきれなかったことが示された。さらに、TA機関の制度化にむけた課題として安定財源の確保や人材育成、ネットワーク構築について言及されたほか、TAを将来的に担ういくつかの可能性が示された。
 続くパネルディスカッションでは、科学技術の政策決定支援の仕組みについての課題やしかけについて、特に政策決定者の立場から国会議員の方々、研究者の立場から加藤和人氏(京都大学)、さらに英国議会のTA機関であるPOSTのデイビッド・コープ氏の間で議論が交わされた。
 まず、政治サイドの問題意識として、遠藤乙彦氏(公明党衆議院議員)より、TAの意義は、科学技術の弊害をどう規制していくかの側面とともに、技術が雇用や経済成長にどのように貢献するかについても議論していくことにあるとの指摘がなされた。ただし、TAが社会に定着するためには、より時代に即したネーミングが必要ではないかとの政治家らしいコメントもいただいた。
 医師であり、弁護士でもある古川俊治氏(自民党参議院議員)からは、医療技術の発展に伴うリスクや倫理的、法的な問題に対応するものとしてTAの重要性を捉えるとともに、現在の審議会などで行われる技術に対する評価は、一般の人には理解の難しい議論であり、これら理解困難な問題を社会に伝えていく活動としてTAの意義があるのではとの期待が示された。
 藤末健三氏(民主党参議院議員)からは、科学技術イノベーションの成果をいかに経済成長に結びつけるのか、という視点から現在、議会に科学技術イノベーション戦略本部を作ろうとの動きがあることが説明された。
 次に、研究者コミュニティの立場から加藤和人氏(京都大学准教授)より、TAに対する研究現場の期待として、研究者コミュニティが積極的に規制に働きかけ、規制サイドとの相互のインタラクションにつなげていく重要性が指摘された。日本の研究者コミュニティは、これらの活動に他国に比べ遅れをとっている状況である一方、日本人類遺伝学会、再生医療学会、ゲノムELSIユニットなど、現場からの提言を行う活動も紹介された。
 一方で、英国TA機関POSTのデイビッド・コープ氏より、日本とイギリスでTAの機能を社会に導入していく過程の比較についてコメントいただいた。英国では、科学の発展に伴う様々なコンテクストの中で、政治哲学としてのTAの必要性が検討されました。現在も国民によるTAへの期待は高く、とくに現在の欧州経済の衰退の打開策として科学技術のTAへの期待もある。日本においては、研究資金の投入に対する効果についての行政のTA的な関心はある一方で、政策決定の場だけではなく、社会における評価をより習慣化していく必要があるのではないかとの指摘がされた。
 その後の議論の中でも、TAの役割は技術の生み出す弊害を規制という側面だけではなく、雇用や社会経済の向上にどう貢献するかという点で捉えられるべきであるとの強いメッセージが発せられた。また、津村啓介氏(民主党衆議院議員)より、上記の点から、TAの必要性や重要性が認識され、日本の歴史においてはじめて国会の議論の中にTAが位置づけられる動きがあり、TA制度化に向けた新たな第一歩が踏み出されようとする今が大変重要な時期であることが強調された。さらに、フロアからからは、TAには、技術の社会導入前の事前評価という側面だけではなく、社会に導入された後も継続的あるいは連続的に評価をしていくことの重要性も指摘された。将来の社会影響の予測を正確に行うことは困難だが、その過程を継続していくプロセスが大切であり、将来の予測が当たることよりも、事前にあらゆる状況を考えておくことの意義を確認して、シンポジウムは終了した。

(執筆:I2TAプロジェクト)

佐藤プロジェクト 2011年2月5日開催
公開シンポジウム「自然再生をつうじた地域再生―経済と文化の視点から―」


パネルディスカッション

パネリストの議論に聞き入る参加者

地域環境学ネットワーク会員との議論

本プロジェクトで設立した「地域環境学ネットワーク」が、2回目の公開シンポジウムを開催しました。今回は、一度は絶滅したコウノトリを再び野生に戻すという壮大な取組みが進んでいる兵庫県豊岡市で、自然再生と地域再生の様々なアプローチを学びあいました。
 豊岡では、この20年ほどの間にコウノトリ「も」住める環境をつくろうと、生き物を育む農法の開発や農業施設の整備などが取り組まれてきました。現在では、40羽余りのコウノトリが県外を含む野外で生息しています。豊岡市コウノトリ共生部コウノトリ共生課の坂本成彦さんからは、コウノトリの野生復帰が自然再生だけでなく、新しい経済活動や交流を生み出していることが説明され、コウノトリの飛来によって地域が元気になっている事例なども紹介されました。兵庫県立大学/兵庫県立コウノトリの郷公園の菊地直樹さんからは、コウノトリ野生復帰というプロジェクトに参加する「レジデント型研究者」としての調査結果をもとに、豊岡では自然との付き合い方に関する知識や絆などの文化がコウノトリをきっかけに再活性化しているのではないかという見方を示されました。
 北海道道東でシマフクロウの森づくりと流域再生に取り組む虹別コロカムイの会大橋勝彦さんからは、地元住民が流域の自然の恵みに感謝しながら息長く活動を続けるための工夫などが紹介されました。高知県で小規模自伐林家による林業システムづくりと普及に取り組む土佐の森・救援隊の中嶋健造さんからは、山主が自分の山を手入れをすることによりバイオマスの活用と森林再生を実現するシステムが各地に広まっていることが紹介されました。最後に鳥取大学/有限会社真南風(まはえ)の家中茂さんからは、沖縄で自然環境や生産者の暮らしを守るための農産物の流通システムが欠けていたことから、農産物だけでなく生産者の思いや知恵も流通させる「真南風」を設立された経緯が紹介されました。
 パネルディスカッションでは、パネリストがお互いの活動に言及しあいながら、聴衆との議論が展開されました。どの取り組みも、個人の気づきや小さな一歩から始まり、共感が積み重なって、活動が成長し飛び火することで大きなうねりを生み出し、結果として人間と自然のかかわりを再構築することにつながっています。そこには、異なる立場や事情を持つ人々が関わることのできる経済的な仕組みの開発や、地域住民が共通に持つ文化的な基盤をシンボルとすることで、活動に求心力が生まれている様子を読み取ることができます。取り組みの内容はバラエティーに富んでいましたが、お互いに学ぶことが多く刺激に満ちた集まりとなりました。シンポジウムには地域環境学ネットワーク会員だけでなく、地元豊岡市民の方にも多数ご来場いただきました(参加者合計62名)。
 翌日は、地域環境学ネットワーク会員が豊岡市内の自然再生地を現地視察し、研究会では「協働のガイドライン」公表に向けた議論を行いました。

(執筆:清水万由子)


中嶋健造氏

菊地直樹氏

戸島湿地に降りるコウノトリ

中村プロジェクト 2010年12月19日開催 法と科学の哲学カフェ「合理性の衝突」

 

法学者には法学者の、科学者には科学者のロジックがあります。しかも法学者と科学者は、お互いのロジックの違いについて熟知しているわけではありません。法と科学の哲学カフェ「合理性の衝突」では、当プロジェクト・法グループの亀本洋さん(京都大学大学院法学研究科)と同・科学グループの村上祐子さん(東北大学大学院理学研究科)のおふたりにご登壇願い、それぞれの立場から意見を闘わせました。そのことにより、参加者の方々に対して本プロジェクトの一端を紹介しつつ、法と科学の考え方に違いがあること、お互いの立ち位置についての理解についてもズレがあることを、イベント参加者の方々とともに、当事者である本プロジェクトメンバーである私たち自身が改めて認識しなおすことを目指しました。

亀本さんは、裁判官や法学者を含めて、法の専門家の方々共通にみられる独自の思考について具体的に紹介されました(これを「役人型法思考」と呼んでいました)。また、裁判官が裁判においてどのような考え方しているのかについて、本プロジェクトの中で明らかにするのは意味があるだろう、とも話されました. また、村上さんは「科学者は、科学のすべてについて詳しいわけではない」と述べるとともに「科学者に過剰な期待をしないでほしい。それを踏まえた上でみんなのコメントが出るような仕組みをつくることができればいいのはないか」と話されました。瀬川プロジェクト(※1)・サイエンス・メディア・センター(SMC)(※2)における、サイエンス・アラートの取り組みが参考になるかも知れません。

本プロジェクト初の、リーガルカフェでもサイエンスカフェでもない「異種格闘技」の試みでしたが、スタッフを含めて28名もの参加者の方にお越しいただき、随所に意見交換を行いながら活発な対話の場とすることができました。また、終了後に何人もの方から次回の予定を聞かれる等、今後のカフェイベントに寄せる期待の高さを感じました。 社会に開かれた「科学技術と社会の相互作用」の研究開発活動のひとつとして、本プロジェクトにおける位置づけを探りながら、継続発展していければと思っています。

(執筆:立花浩司)

※1 瀬川プロジェクト
http://www.ristex.jp/science/project/segawa.html

 ※2 サイエンス・メディア・センター(SMC)
http://smc-japan.org/

飯澤プロジェクト 2010年12月11日開催  第1回BSE熟議場in北大

 

RIRiC「はなしてガッテン」プロジェクト(「アクターの協働による双方向的リスクコミュニケーションのモデル化研究」)では、「説得から納得」を合言葉に、さまざまな立場の人が協働して行うリスクコミュニケーションのモデル化を目指しています。取り扱っている話題は食の安心・安全、特に遺伝子組み換え作物とBSE全頭検査の問題です。

私たちは帯広で開催してきた小規模な対話の場である「振り向けば、未来」の経験を踏まえ、12月11日にBSE問題について、多様な立場からの話を聞いて参加者皆で議論する場、私たちはそれを「熟議場(じゅくぎば)」と名付けました、を設け、BSE問題について話し合いました。当日は、午前の第1部と午後の第2部に分かれました。

第1部は、「吉川先生にとってBSE問題って何でしたか?」と題した食品安全員会プリオン専門調査会の座長を務めていらした吉川泰弘先生のお話と質問タイムでした。BSEとは何かという基本情報から始まり、現在の牛のBSEコントロールについて帯広畜産大学の門平睦代先生の話を挟んで、BSE対策の有効性や危機管理のあり方、リスク分析とリスク評価についてもお話いただきました。質疑も活発に行われ、BSEに関する科学的な知見から研究者の役割まで幅広い質問が出され、吉川先生・門平先生には丁寧にお答えいただきました。

第2部は、「まるくなって話し合おう」という意気込みで、討論参加者28人が集まりました。前半は吉川先生とマスコミから北海道新聞の相澤宏さん、行政から北海道の桑名真人さんを迎えた3人による鼎談でした。当時の思い出からマスコミへの注文、反対に研究者への注文などお互いに望むことなど3人のお話を聞きました。

後半のグループ討論では、2013年にBSEの「無視できるリスクの国」となったら…?をテーマに鼎談をした3人もグループに入って全員で議論をしました。1時間と短い時間でしたが、具体的なBSE対策からリスクコミュニケーションのあり方まで多くの意見が出されました。最後にグループの議論を全員で共有し全体で再度討論をし、幕を下ろしました。

今回の熟議場で何かまとめができたり、結論が得られたわけではありません。ですが、さまざまな立場、さまざまな思いがあることを互いにしっかりと聞き、リスクコミュニケーションでは多様な人々が集まって議論すことが重要だとの思いを各々の胸に残しました。私たちはこれらを踏まえ、次の議論につなげていきたいと考えています。

(執筆:平川全機)

 

瀬川プロジェクト 2010年11月26日開催
サイエンス・メディア・センター スタートアップ・シンポジウム

 平成21年度採択のRISTEX研究開発プロジェクト「科学技術情報ハブとしてのサイエンス・メディア・センターの構築」は、その名の通り、研究者とメティア関係者をつなぐ新しい社会技術を持った組織を作ることで、科学技術情報が、より正確に、より適切に伝わる社会の実現を目指しています。
 この科学技術情報のハブ組織を「一般社団法人サイエンス・メディア・センター(SMC)」として、2010年10月に設立いたしました。
 また同11月26日には、豪日基金の支援を受け、先輩格にあたる海外SMCの人々をお招きし、日本の科学技術情報を世界に発信していくために、日本SMCが果たすべき役割について議論するシンポジウムを開催しました。
 SMCJの設立を記念するこの「スタートアップ・シンポジウム」には、既にSMCが活発に活動している英国から、ディレクターのフィオナ・フォックス氏、豪州SMCからスザンナ・エリオット氏、科学技術コミュニケーションが活発な米国からAAASフェローのリン・フリードマン氏が壇上に立ち、各国におけるSMCの意義と成果、今後の日本におけるSMCの展望などについて講演いただきました。
 またシンポジウムの後半では、日本SMCの瀬川至朗理事、ファシリテーターとして朝日新聞科学医療部の高橋真理子氏も参加して、会場からの意見を交えたパネル討論が行われました。
 議論を通して見出されたのは、日本における SMCの可能性です。日本には全国紙の科学部記者をはじめとする科学専門ジャーナリストが大勢います。しかし、全国紙以外でも、テレビや地方紙、ネットのブログやツイッターなどでも豊富な科学情報が流通し、かなり大きな影響力を持っています。
 そうした多様なメディア関係者に対して、科学技術の専門家の持つ見識を正確に適切に伝えていくことで、玉石混淆の混沌とした科学技術情報の中から情報を取捨選択し、市民が議論を深める場を作ることができるとSMCは考えています。これに対して、パネリストや会場からは期待の声が寄せられました。
 この議論を参考に、本SMCでは今後ますますの発展に努めていきます。

(執筆:永井健太郎)

瀬川プロジェクト 2010年11月25日開催
「科学技術の国際広報を考える」ワークショップ


講師のリン・フリードマン氏

 現在イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどで独立したサイエンス・メディア・センターが運営されています。こうした背景を踏まえて、平成21年度採択の 「科学技術情報ハブとしてのサイエンス・メディア・センターの構築」プロジェクト(研究代表者:瀬川 至朗/早稲田大学政治経済学術院 教授)が、委託研究の一環として一般社団法人サイエンス・メディア・センター(SMC)を設立しました。
 設立を記念して、ワークショップとスタートアップ・シンポジウムが開催されましたが、ここでは「科学技術の国際広報を考える」ワークショップについて報告します。
 講師はアメリカでサイエンスライターとして科学技術のパブリック・リレーションに長く携わってこられ、AAASやパブリック・リレーション・ソサエティー・アメリカのフェローを務められているリン・フリードマン氏。会場となった早稲田大学の教室に15名ほどの大学や研究機関、企業などの国際広報担当者が集まりました。
 まず、アメリカの広報がどのように発展・進化してきたか、また広報の役割の変化について、フリードマンさんご自身のキャリアと絡めたお話を伺いました。科学技術の広報に関してはアメリカでもまだ十分とは言い難く、2004年の調査で「科学が社会を良くすると信じている」と答えた人はわずか34%であり、「遺伝子組み換え食品に関してどこの発信した情報を信じるか」という別の調査でも、大学の情報を信じると答えた人はたった6%だったそうです。一方で「Science Friday(NPR)」というポッドキャストがわずか一ヶ月で2000万ダウンロードを記録するなど、一般の人々の科学に対する「信頼」は低いけれども「関心」は高いことから、科学と社会の間の翻訳者となり、双方向のコミュニケーションを取りながら、ターゲットとなる人々と理想的な関係を作り、信頼性をあげることが科学技術の広報担当者の役割であるというお話がありました。
 また、科学広報を一般の人々向けに行っている実際のWEBサイトを題材に、ディスカッションを行いました。記事を書くときには使い古された慣用句を用いない、見出しに「how」という言葉を用いない、など具体的なwriting skillについてのお話も伺え、興味深いワークショップとなりました。

(執筆:すもも/RISTEX広報担当)

※関連リンク:一般社団法人サイエンス・メディア・センター
http://smc-japan.org/

一般社団法人サイエンス・メディア・センター ワークショップ
http://smc-japan.org/?p=380

柳プロジェクト 2010年10月1日開催
第2回里海創生シンポジウム「瀬戸内海の未来を考えるシンポジウム」

 

柳プロジェクトのNPO法人環境創生研究フォーラムが中心となり第2回里海創生シンポジウム「瀬戸内海の未来を考えるシンポジウム」が高松市のかがわ国際会議場で開催されました。
 浜田恵造香川県知事から歓迎と期待の挨拶が行われたあと、まずは大阪大学の村岡浩爾名誉教授により、平成22年3月に神戸市で開催した第1回里海創生シンポジウムについて、瀬戸内海に関わる企業、専門家、漁民、市民が、それぞれの立場の違いを理解しつつ、連携して里海づくりを進める必要性が明らかにされたとのまとめが報告されました。
 次に、研究開発プロジェクト代表の柳哲雄教授(九州大学)が、「里海づくりの考え方」について講演。海の環境保全と、海を生活の場としている漁民のためには、人間が自然のリズムを理解し適切に手を加えること、また、市民が海に親しみ、自然の仕組みを理解し実感する機会をつくることが重要であると語りかけました。
 「里海づくりの展開策−次の一歩は?」をテーマにしたパネルディスカッションでは、コーディネーターの岡市友利名誉教授(香川大学元学長)が、市民にとっての身近な生活の場としての瀬戸内海の役割や現在の瀬戸内海の状況と併せてパネルディスカッションの趣旨を説明。その後、5人のパネリストがそれぞれ事例紹介を行いました。
 谷本照己氏(産業技術総合研究所)は、広島県の三津口湾の広大なアマモ場で、里海づくりに関する藻場の役割を研究する一環として、人工的にアマモを抜き取ることにより、魚介類が藻の中で生息しやすくなるようになった例を紹介。また、抜いたアマモを有機肥料として市民に活用してもらうことにより、市民が里海に関わるきっかけになっていると説明しました。
 一見和彦准教授(香川大学)は、里海づくりに関する干潟の役割解明のため、香川県内の3ヵ所の干潟を比較研究した結果、生息する生物の種類や現存量は、栄養度によって変化し、栄養度が高く実質的には水質があまり良くない新川・春日川干潟での生物量が最も多かったことを報告。特にアサリについては、潮干狩りによりその7割程度が捕獲されるものの、稚貝・幼貝により資源が回復すること、食用であるアサリは、同時に水質を浄化する重要な存在として適切に管理する必要があることなど話しました。
 片山真基氏(海洋建設株式会社)は、豊かな海をつくるためには、栄養過多なメタボから抜け人の手による「リハビリ」が必要であると指摘。貝殻パイプを利用した漁礁を製作し海に沈めた調査では、貝殻漁礁に多様な餌生物が生息・生活する場が確保でき、その結果、漁獲量の増加、貝殻利用による環境保全や水産資源の回復などが認められたと報告しました。
 末永慶寛教授(香川大学)は、水質浄化機能を促進する炭酸化多孔質体を装着したコンクリート製の構造物を開発。これを瀬戸内海に沈めて潮の流れを制御し海の底質改善を行うと共に、魚の餌料となる生物の確保や稚魚の保護を進め、更にその改善を目指していること、これは生産性、多様性の本来あるべき姿を取り戻す活動であると説明しました。
 田野智子氏(NPO法人ハート・アート・おかやま)は、瀬戸内海の笠岡諸島での活動を紹介。島の高齢者たちが、いきいきとして連日展示会場に来てはとめどもなく過去や経験を語ったことや、他県から受け入れた学生に島での暮らしとものづくりを体感してもらう人材育成の試みなどを通し、限界集落と呼ばれる島で、アートを通じて地域の絆を再発見したり、島外からの目線の投入により「古くて新しい価値」に気づいた経験、今後の可能性への抱負などを語りました。
 ディスカッションでは会場との活発な意見交換があり、柳教授(コメンテーター)からは、「漁民と99.8%の非漁民(都市住民)との関係を考える必要があるが、瀬戸内海は島も含めて高齢化の進んだ限界集落が多く、10年も経てば誰もいなくなる緊急事態となっている。そのため、里海づくりにより、生産性と多様性を高めて漁民の暮らしを考えることが最重要課題である。一方、島づくりのひとつとして「これまで考えてもみなかった芸術や文化を利用して、島で何ができるかを考えようと思う」と、田野氏の講演に大いに刺激を受けたようでした。
 最後に岡市名誉教授が、「生物多様性を維持しながら生物生産の場づくりの技術・方法が提案されたので、今後これを里海づくりに活用することが必要」、さらに、「富士山ではなく、瀬戸内海こそ日本の象徴であると考える。瀬戸内海に関わる皆で里海をつくる「瀬戸内海の里海化」により漁業を安定させ島を豊かにし、『瀬戸内海のネックレス』と言われる笠島諸島などの島々を輝かせたい」とまとめました。
 当日は総数で135人の参加者が集い、瀬戸内海の未来についてそれぞれに思いを馳せていたようで、登壇者の話に熱心に耳を傾けていました。

(執筆:若山恵美)

 

佐藤プロジェクト 2010年9月18日-19日開催
地域環境学ネットワーク 設立記念シンポジウム

 

「地域主導型科学者コミュニティの創生」プロジェクトでは、2010年3月に「地域環境学ネットワーク」を設立し、地域の環境保全と持続可能な発展を目指す活動や研究に取り組むステークホルダーと研究者の情報交流と相互研鑚を進めています。
 今回のシンポジウムは、地域環境学ネットワークの設立を記念して開催したもので、両日とも全国各地より約100名のご参加をいただきました。地域環境学ネットワークの理念と意義をご紹介するとともに、全国各地の多彩な事例報告をもとに、地域の問題解決に役立つ知識生産のあり方と、それを可能にする地域内ネットワークのダイナミックな活動について議論しました。
 基調講演では、地域社会の一員として生活しながら研究を行う「レジデント型研究者」を中心に、多様な知識生産のあり方を追求する地域環境学ネットワークの理念と活動構想が紹介されました。「地域に役立つ知識―さまざまな研究のあり方―」をテーマとするシンポジウム第1部では、大学に所属する職業的研究者と生業や政策提案活動に取り組む方々との間で、地域社会と協働する職業的研究者の心構えや、地域社会で生業を営むステークホルダーにとっての科学研究の意味などについて意見が交わされました。5名の講演者のアプローチはそれぞれに個性的であり、地域に役立つ知識を生み出す人々の動機や能力の多様さを改めて感じさせられました。パネルディスカッションを通じて見えてきた論点の1つは、地域環境学の担い手は複層的な存在であるということです。私たちは、つい「研究者」や「漁業者」などといって職業を固定的で画一的なものと考えがちですが、実は個人の職能や活動は、その人の様々な関心や経験が折り重なって、複層的に形作られているのではないでしょうか。つまり、研究者であると同時に農業者であり、芸術家であり、社会運動家であることも十分可能なのです。「兼業」「半業」「複業」と呼ばれるような職能の組み合わせがそれぞれの個性であり、それらを貫くものがあるとすれば、それが地域環境学の基本コンセプトとなるのかもしれません。
 シンポジウム第2部では「地域で活躍するネットワーク―意見や価値観の違いを超えた協働―」と題して、実際に地域社会の問題解決に向けて人々のネットワークを作り上げてきた方々の事例が紹介されました。地域の環境保全や持続可能な発展をめざす活動を生み出し、駆動するプロセスが生き生きと語られ、聴衆はおおいにひきつけられました。パネルディスカッションでは、意見や価値観の違いを超えた協働をコーディネートする機能や、科学的知識と在来の知識をトランスレートする機能を、いかにして地域内に培っていくか、あるいは普遍化することが可能か、という点に関心が集まりました。一枚岩ではない地域社会の中で、地域の自然的、社会的な状況を科学的に分析することで、地域の人々が共有可能な到達目標や協働のスタイルを見出せる可能性についても指摘されました。5名の講演者の皆さんからは、独創的な協働の手法や技術だけでなく、人々の心にうったえる情熱や強い信念がとても印象に残りました。
 また、2日目午前には地域環境学ネットワーク会員総会が開催されました。設立以来初めて会員が顔を合わせて、協働のガイドライン草案と参加型研究評価システムの構想について意見交換を行い、問題意識の共有を図りました。1日目の交流会、2日目のポスターセッションでは、異なる地域や専門分野からの参加者が互いの経験と研究を共有し、学びを深める絶好の機会となりました。2日間を通じて、今もなお冷めない熱気に満ちたシンポジウムとなりました。

(執筆:清水万由子)

 

※佐藤プロジェクトによるシンポジウム開催報告サイト
http://lsnes.org/symposium2010/presentation.html

城山プロジェクト 2010年8月30日開催  I2TA公開シンポジウム
「テクノロジーアセスメント(TA)の実践とわが国における制度化の課題」

   

2010年8月30日、残暑の厳しい中、I2TA主催の公開シンポジウムが開催されました。国内外から170名近くの方にご参加いただき、会場では登壇者と参加者との間で白熱した議論が行われました。

I2TAプロジェクトは、テクノロジーアセスメント(TA)の現代的な意義を再考し、社会におけるイノベーションのプロセスの中でTAをどのように活用できるかを考え活動しています。本シンポジウムでは、科学技術と社会とのよりよい関係を構築すべく国内外で展開されているTAやそれに類する多様な活動を紹介し、関与する人や組織をつなぐプラットフォーム構築へ向けた第一歩となることを目指しました。

午前中は日本国内の3つの事例を紹介しました。
 京都大学の加藤和人さんからは、ゲノム研究、iPS細胞研究といった最先端の生命科学の研究における研究倫理とガバナンスのあり方についてお話いただきました。日本でも欧米の動向に倣い、まず科学者のコミュニティが成熟し、科学者自身が倫理問題に積極的に取り組むようになること、さらに法学者や政策研究者といった関連する分野の専門家が参画することにより、社会における先進的な研究のあり方を問い続けていくことが重要であると言及されました。
 和歌山大学の秋山演亮さんからは、今後の宇宙政策のあり方に関する有識者会議に参加された経験をもとに、宇宙技術開発の社会的な意義とそのような議論の場のあり方についてお話いただきました。日本は第二次大戦の敗戦国でありながら衛星やロケットを開発し打ち上げた、高い技術と実績を持っています。しかし、宇宙開発は成長市場にあるにも関わらず、日本は十分に存在感を発揮し、ビジネスを成功させるに至っていません。今後はこの現状を踏まえ、関連する省庁間の連携を再び促進させるなど、政策面からも宇宙開発を推進すべきであると言及されました。
 次に、I2TAプロジェクトから、研究成果として、ナノテクノロジーを対象とした、TAの実践活動報告がなされました。竹村誠洋さんからは、ナノテクのリスク研究の概略を解説いただき、つづいて松浦正浩さんからは、医療分野におけるDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)をめぐる医学研究者、工学研究者などを含む多様なステークホルダー間の連携について紹介いただきました。上田昌文さんからは、消費者アドバイザー、食品事業者や様々な分野の専門家を巻き込んだ食品分野におけるナノテクノロジーの応用と課題の整理に関する調査の中間報告がなされ、吉澤剛さんからは具体的な地域における未来の住宅、住まいのあり方に即して省エネルギー技術としてのナノテクノロジーの利用可能性を検討した一連の調査およびワークショップの事例を紹介いただきました。

午後は、海外からの講演者3名から、欧州各国のTAの事例を紹介いただききました。
 フランス国立農学研究所(INRA)のPierre-Benoit Jolyさんには、遺伝子組み換えブドウを事例にした協働的TA (iTA)という取り組みの紹介と教訓についてお話いただきました。iTAとは、研究者や市民、関連するステークホルダーを交えたワーキンググループによって、問題の定義や研究プロジェクトのデザインをどう改善するかということについて議論するものです。その成果として、公の場で議論されなかった問題を提起し、意思決定のプロセスを大きく変えたことが指摘されました。
 英国サセックス大学のAndrew Stirlingさんからは、TAの定義と、TAの制度化のあり方についてお話いただきました。伝統的なTAでは、特定の方向に議論を展開する傾向があること、そのため複数の選択肢の検討が不十分であることを指摘されました。TAをイノベーションのガバナンスという視点から捉え、実践に必要な情報や手法、参加者、選択肢をオープンな形で多様化しておくことで、技術をめぐる大きな問題を把握することが可能となります。
 オランダ・アムステルダム大学のJohn Grinさんからは、社会構造を変革させることにより、技術に伴う副作用やリスクを抑えながら技術や社会のあり方を新しい方向に移行(トランジション)させていくアプローチについて、アムステルダムの港湾プロジェクトを例に、市民やステークホルダーによる関心やアイデアを反映した問題分析や将来戦略を含めた実施プロセスと、その過程により得られた教訓に焦点を当ててお話いただきました。

I2TAの城山リーダーは、これまでの議論を総括し、TAにはトランジションやイノベーションに寄与するような新しい可能性を開くツールとなるという期待とともに、イノベーションにかかる意思決定主体との適切な距離の取り方が必要である点への注意を喚起した後、TAの制度化に関する提言を行いました。制度化の具体的あり方として、(1)政府や自治体レベルでのTA機関の制度化、(2)政府によるTA活動のための資金枠の設定、(3)個別研究開発機関等のイニシアティブによるボトムアップ的な制度化、(4)アジアや欧州と連携した国際的制度化、の大きく4つを提言し、そのための組織運営体制や人材育成の課題にも触れました。

その後、パネリストを交えたパネルディスカッションが行われました。
 はじめに政治、行政側の観点から、内閣府大臣政務官の津村啓介さんと社会技術研究開発センター長である有本建男さんよりコメントをいただきました。
 津村さんは、日本の科学技術政策にとって、政権交代を経て第4期科学技術基本計画の策定を行い、さらに総合科技術会議の改組を控えた非常に重要な時期であると述べられました。こうした背景のもと、TAの制度化のためには、@TAという概念の新規性・独自性、A過去のTAにおける成功・失敗体験の共有、BTAに適した(適さない)課題の選別、の3点を明確にすることが求められると指摘されました。

一方、有本さんは、TAをより発展させるには、TAコミュニティにとどまらず関連分野の若手研究者や学生を対象にイノベーションやガバナンスなどの話に含める形でTAのコンセプトや取り組みを広く伝え、彼らと問題意識を共有すること、またTAを継続的に行う組織やネットワークを構築することが重要であると指摘されました。

次に、欧州からのゲストに、各機関での経験を踏まえ、日本におけるTAの制度化についての示唆をいただきました。
 駐日欧州連合代表部公使参事官のBarbara Rhodeさんは、日欧の協働を含めた国際的な連携の重要性に触れ、産業界やNPO、行政機関など多様なステークホルダーを巻き込んだ仕組みづくりにより、TAは民主主義をより科学的にして、科学をより民主的にするためのよすがとなるだろうと展望されました。
 Jolyさんは、継続的な学びのプロセスというような形でTAを定期的に実施し、制度的な可変性を保っておくこと、TAを文化として幅広い関与を実現するに義務的な制度の導入も場合によっては検討することが提案されました。
 Grinさんは、オランダでの経験から、社会的なステークホルダーの巻き込み、学術界がキャパシティを蓄積すること、小規模な事例での実験的な取り組みによる手法開発を進める必要がある、といった教訓が示されました。
 Stirlingさんは、厳しい予算や人の制約があるなかでも、カンバン方式のように、幅広く既に社会にあるものを活用し、組織や国を超えた協働によってTAが可能になるだろうとのコメントがありました。
 会場からは、日本の科学技術政策のアウトリーチ振興策、科学技術と社会をつなぐ専門家の育成や学会のあり方、若手研究者の雇用問題、TAの重要性を社会全体に訴求すべきであるといった質疑や意見が交わされ、議論は大いに盛り上がりました。
 最後になりましたが、本シンポジウムにご参加、ご後援いただいた皆様に御礼申し上げます。

(執筆:古屋絢子)

中村プロジェクト 2010年8月23日開催 シンポジウム「科学裁判を考える」

 

科学技術が進むにともなって、不確実な危険性をかかえたもめ事が裁判所の法廷に持ち込まれてきます。このプロジェクトでは、法律の専門家と科学者が日本の裁判の中で科学的な問題を議論する時に、「どんな問題点があるのか」、「なぜそのような問題が起こるのか」、「どうしたら解決できるのか」などを、どのように議論していけばより社会のためになるか、立場や専門性、分野を超えて意見を出し合い研究しています。

今回のシンポジウムでは、米国からシーラ・ジャサノフ氏が、裁判における科学論争について米国の事例をまじえてお話くださいました。オーストラリアからは、ニューサウスウェールズ州最高裁判所のマクレラン裁判官が、ご自身の法廷弁護士としての30年にわたる実務経験を通して考えたことや事例をご紹介くださいました。

シンポジウムの後半は、当プロジェクト・法グループ代表中村多美子氏と科学グループ代表本堂毅氏の司会により、パネルディスカッションとしました。日本の民事訴訟法の研究者金子宏直氏からは、日本の民事裁判のルールについてご説明いただき、岡山大学津田敏秀氏からは、日本の裁判における問題点を疫学専門家の視線で語っていただきました。

参加者からの感想や意見、問題点を分析しながら、今後も、法の専門家、科学者だけにとどまらず多くのみなさまからご意見をお聴きして、法と科学の間に横たわる問題を浮き彫りにして、解決のためのなにができるのか、なにが残せるのかを探っていきたいと思っています。

(執筆:中村多美子)

 

※サイエンスポータル 「ハイライト」
 http://scienceportal.jp/highlight/2010/101004.html


その他のイベント